Blog
ブログ記事

「SXSW 2014」に見る、今後の技術・産業動向を占う10のキーワード【後編】

「SXSW 2014」に見る、今後の技術・産業動向を占う10のキーワード【後編】

キーワード6: ビッグデータ

ビッグデータに関しては、ウェアラブル、IoT、デジタルヘルス、コネクテッドカー、ロボティクス、共有サービスのどの分野でも莫大なデータが生み出される状況で、それをどう活用できるかが最重要課題となっている。

SXSW2014のセッションは非常に多岐にわたり、
●ビッグデータ革命に積極的に参加するには?
●ビッグデータを今後どう使いこなしていくか?
●ビッグデータに関して、プライバシーの問題とデータ活用をどう両立し、解決するか?
●先進国では人口の過半が都市に集中する中で、法律を含め、データをどう活用して解決するか?
●一人ひとりの生活者から吐き出される膨大なデータをどう活用し、より効果的な動機付けをしていくか?
●ビッグデータ活用により、100億人以上を養う食料生産をどう実現すべきか?
●ビッグデータ活用により、どうやって電力のデマンドレスポンスを実現すべきか?
●ビッグデータ分析により、人と人とのコミュニケーションがどう改善されるか?
●ビッグデータ活用により、駐車場探しをどう短縮し、道路混雑を解消するか?
●ビッグデータ活用により、スポーツ選手のパフォーマンスをどう上げるか?
●ビッグデータ活用により、不動産の価値をどう評価するか?
●ビッグデータ分析により、音楽の次の大ヒットを見つけるには?
●ソーシャルメディア上の発言を分析することで、どう購買活動を促進するか?
●オープンデータとビッグデータがヘルスケアをどう改革するか?

などが活発に議論された。米国では、ビッグデータ関連ベンチャーへの出資や買収が数年来続き、2008年から2012年までに4900億円が投資されている。


出典: http://www.cbinsights.com

さらに、2013年1年だけで3600億円が投資された。2014年には、Apache Hadoopベースの企業向けデータ分析マネジメント分野のリーダーである米Clouderaが160億円調達した12日後にインテルから740億円の投資を受け、大変な話題を呼んだ。Clouderaは合計1000億円以上を調達している。

Cloudera以外にも、Hadoopデータのプラットフォームを提供するHortonworksが198億円、ビッグデータ分析を提供するOpera Solutionsが114億円、ビッグデータ統合・連携基盤を提供するTalendが101億円を調達するなど、ビッグデータ関連ベンチャーへの資金投入が著しい。

img2「SXSW 2014」に見る、今後の技術・産業動向を占う10のキーワード【後編】

これらビッグデータ関連ベンチャーは、ビッグデータの取得、保存、分析、活用に大きく貢献する。ビッグデータが確実に企業経営に大きなインパクトを与えている。

日本では、ビッグデータ関連ベンチャーは数えるほどしかなく、昨年来、大ブームが起きているものの、実態が全く伴っていない。インターネットインフラ、携帯インフラがほぼ米国企業に押さえられている以上に、ビッグデータ関連が米国企業に牛耳られる可能性が極めて大きい。

キーワード7: 3Dプリンティング、メーカーズ革命

昨年3月、SXSW2013の基調講演のトップバッターに、3Dプリンターで有名なMakerBotのCEOが登場した時、SXSWの変化を感じた。Twitter、Foursquare、GroupMe等、ソーシャル性の高いアプリ、サービスが注目を浴びていたSXSWの基本路線から大きく踏み出していたからだ。

基調講演に続き、いくつかのセッションで3Dプリンターについて語られた。これが、SXSWにおける3Dプリンティングの夜明けだったようだ。

ところが、今年は、3Dプリンティングが一気にメインストリームとなり、全部で100以上のセッションが開催された。もはや、3Dプリンターのハードウェアへの興味・関心ではなく、3Dプリンターを使って何ができるか、どういう新たなサービスが考えられるか、それによってビジネスが、社会がどう変わるか、という観点からのセッションがほとんどだ。

主要セッションでは、

●3Dプリンティングが製造のルネッサンスをどう加速していくか?
●3Dプリンティングがどのように第三次産業革命をもたらすか? フード・オン・デマンドは?
●DTM(デスクトップ・マニュファクチャリング)の将来は?
●3Dプリンティングを靴のプロトタイプ制作にどう活かせるか?
●3Dプリンティングが食べ物をどう変えるか?
●3Dプリンティングでチョコレートを作ると? 食べ物の将来にとっての課題は?

などが議論された。SXSWでは、オレオが一人ひとりの要望に基づき、3Dプリンティングでその場でクッキーを作り、大人気だった。

Watch an Oreo get 3D custom printed at SXSW from KPCC on Vimeo.

デジタルファブリケーションであり、DTMの可能性を強く感じさせるセッションが多かったが、未来志向というよりは、今すぐ目の前に来ている。高額の金型を作る手間・費用が不要で、在庫がいらず、専門家に頼むこともなく、誰でも、どういった小企業でもハードウェアの製作が可能になる。

これが製造業のあり方を大きく変えるであろうことが明確に示された。

キーワード8: クラウドファンディング

クラウドファンディングに関しては、SXSW2013でも一定数のセッションがあったが、今年は完全に定着し、いかに使いこなすかが焦点になっていた。

●米国外のエマージングマーケット向けにクラウドファンディングをどう実施するか?
●クラウドファンディングの現在の主流である先行販売型ではなく、出資を実現するには(JOBS法)?
参考
●Kickstarterプロジェクトのマーケティング・広報をベンチャーが自力でやるには?
●どのように口コミを拡げていくのか? どういうストーリー、どういうチームが必要か?
●女性に対してフェアなクラウドファンディングとは?
●クラウドファンディングを実施する上での倫理的課題は? 今後どうなっていくか?
●1ヵ月で目標の3倍近くの6200万円を集めたものの、1年たって未だに出荷できていないのは?

クラウドファンディングに関しては、Kickstarterがもっとも代表的で、2009年4月の開設以来、5年間で出資総額1000億円を突破した。

これまで同サービスで出資をしたユーザーは570万人、224ヵ国・地域に渡る。日本からの出資は全体で7番目であり、これまでの総額7億3000万円、2万5000人が出資した。

業界2位のIndiegogoはKickstarterに比べてプロジェクトサイズも出資総額も小さいものの、目標出資額に達しなかった場合もプロジェクト発案者に支払われる点がメリットと考えられている(こちらを参照)。

ウェアラブル、IoT、デジタルヘルス、コネクテッドカー、ロボティクス、共有サービス、3Dプリンティング等、多くの分野でチャンスがあるが、クラウドファンディングでかなりの額を集めることができることで、多くのプロジェクトが実施できた。

SXSW2014でもクラウドファンディングが注目され、イノベーションを加速できている点が米国の強みだ。

Kickstarterに対しては、日本からも百以上のプロジェクト実施があり、特にアニメ、ゲーム等の分野で調達に成功している。一方、日本国内でもクラウドファンディングサイトが多数あるが、調達総額、一件あたりの調達額とも、少額に留まっており、イノベーションの加速にはあまり役立っていない。

キーワード9: 共有経済(モノ・サービスの貸し借り)

ここ数年、モノの所有・消費大国である米国において、個人間、会社間でのモノ・サービスの共有、貸し借りが急激に広がっている。空きスペース、空きリソースを貸し借りすることで、無駄のない社会にしようという趣旨だ。

部屋・住居を貸し借りするAirbnb、車を運転手つきで提供するUber、同乗するLYFT等、数え切れないほどの新サービスが始まっており、巨額の資金調達が行われている。Airbnbは776億円、Uberは1500億円、LYFTは332億円を調達し、グローバル展開を加速している。Airbnbの時価総額は1兆円に達した。

共有経済はあらゆるモノ・サービスに広がりうるため、およそ想像しうる限りの新サービス参入が起きている。

こういった背景で、SXSW 2014において開催されたセッションでは、

●モノ・サービスの貸し借りを個人間だけではなく企業間にも拡げるには?
●モノ・サービスの貸し借りは何百年も前からあるが、デジタルがどう変えるのか?
●余ったものを拠出し、ある程度の利益もあげるには?
●共有経済が社会にどういうインパクトをもたらすのか?
●共有するにはどういう動機付けが必要なのか? 障害は何か?

などが議論された。SXSWの期間中はタクシーがほとんど捕まらないので、Uberへの期待が高かったが、安全面の理由で許可されなかったのは参加者の間で非常に残念がられた。

SXSWへの日本からの参加者のかなり多くがAirbnbを使っており、もはや非常に便利なインフラとして定着している。

キーワード10: セキュリティ、プライバシー

img3「SXSW 2014」に見る、今後の技術・産業動向を占う10のキーワード【後編】

米国の中央情報局(CIA)および国家安全保障局(NSA)の局員だったエドワード・スノーデンは、2013年6月に香港で米政府主導の盗聴問題について暴露し、ロシアに亡命している。

事件以来初めて、SXSW 2014のセッションの場で、ビデオ会議ではあるが公の場に登場した。ロシアでの現在の居場所を突き止められないよう、プロキシサーバを7台を経由して接続しているとの説明があった。

スノーデンは、

●「個人の電話、メール等すべてが記録され盗聴されている。しかも、国家の安全という本来の目的を超えて行われている」
●「一方、本当の危険人物に対しては、必要な情報収集が逆に薄まっている」
●「一人ひとりは盗聴に対して防御策を講じるべきだ。NSAがすべての暗号を解読した、という噂は決して正しくない」
●「防御策を講じれば講じるほど盗聴コストが上がるので、個人のプライバシーを守りやすくなる」
●「技術者・プログラマーはもっとセキュリティ強度を上げた製品を作る必要がある」
●「SXSWに参加している技術者の皆さんこそ、個人のプライバシーを守るために戦うべきだ」
●「政府のこういった盗聴行為をもっと監視すべき。合衆国憲法を侵す盗聴行為が国家安全保障局によってなされているので自分は告発した」
●「自分のしたことに後悔はしていない。私の身に何が起きようとも、我々が知るべきことがある」

と訴えた。

米国政府から逮捕状が出ている彼の発言に対し、オースティンコンベンションセンターのメイン会場に集まった3500人の観衆がスタンディングオベーション(欧米で、講演・演奏等に感動した聴衆が立ち上がって拍手を送ること)で迎えたことは重要な意味を持つ。

国家安全保障の名の元に、一個人にいたるまでを対象に、政府が行きすぎた盗聴をしていることへの健全な懸念がSXSWという場で真正面から受け止められた、というふうに理解している。

それにしても、30歳直前の彼が、一般的には恵まれた生活とガールフレンドを捨て、追われる立場になることがわかっていても国家のために、命の危険を省みず、自分の信条に沿った行動を果敢に取ったことは、心に重く響く。

img4「SXSW 2014」に見る、今後の技術・産業動向を占う10のキーワード【後編】

出典: http://www.chaione.com

また、内部告発サイト「ウィキリークス」を立ち上げたジュリアン・アサンジが、逃亡先のロンドンのエクアドル大使館からスカイプ会議に参加するセッションもあり、SXSW事務局および参加者の問題意識の深さを窺わせた。

ジュリアン・アサンジが何を考えてウィキリークスを作ったのか、背景には何があるのか、なぜ今、南米のエクアドル大使館に亡命しているのか、平和に慣れきっており、国際情勢の裏読みが苦手な日本人にとって、ウィキリークスについてきちんと理解し、意味合いを議論する価値は大きい。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆『ゼロ秒思考』赤羽雄二のオンラインサロンを始めました。
ご入会はこちら
https://community.camp-fire.jp/projects/view/318299

まずはLINEで診断を受けてみたい方はこちら
https://lin.ee/20Kdy9L
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆Instagramを始めました。
フォローはこちら
https://www.instagram.com/yujiakaba
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆音声プラットフォームVoicyを始めました。
フォローはこちら
https://voicy.jp/channel/2885
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆まぐまぐ!メルマガ「赤羽雄二の『成長を加速する人生相談』」を始めました。
メルマガ購読はこちら
https://www.mag2.com/m/0001694638
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆赤羽雄二のLINE公式アカウントを始めました。
アカウントの追加はこちら
https://line.me/R/ti/p/@gtr8764i
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◆メールアドレス(ご感想、ご質問など、お気軽にお寄せください)
info@b-t-partners.com