なぜ経営改革が進まないのか
大企業でも中堅・中小企業でも、事業がじり貧になったり、あるいは急降下したりで、経営改革をどうしても進めなければならない、と考えておられる社長は非常に多いことだろう。
ところが、経営改革は、社長がいくら決断してもそれだけでは全く進まない。数万人はもとより、数十人の組織でも、役員、管理職、社員に数度号令をかけたくらいで新しい方向、いい方向に動いてくれることはほぼ期待できない。
経営改革というのは、これまでの仕事のやり方を根本から見直すことだ。「昼休みに照明を消しましょう」「コピーは必ず2ページ縮小で印刷しましょう」というレベルではない。
今までと同じ顧客をねらっていてよいのか、もし変える場合は、どういう顧客層にシフトすべきなのか、ねらうべき顧客層に新たにどういう価値を提供すべきか、そのために製品・サービスをどう変えるべきか、変えられるのか、営業・サポート体制をどう強化すべきかなど、商品・サービスを根本から見直す必要がある。
また、それらの業務を競合に負けない形で遂行するため、従来のような機能別組織でよいのか事業部制に切り替えるべきか、あるいはその逆か、部門長の人選は従来通りでよいのか見直すべきなのか、各部門はどういうスキルのどういうメンバーで取り組むべきか、人をどう採用すべきか、IT化をいつどこまで導入すべきか、という組織、運営の根本に立ち返った本質的な議論まである。
こういう根本からの見直しは、社長が号令をかけたくらいでは絶対に進まない。社長一人、部下一人の創業初期に、その部下に毎日遅刻しないよう、何とか30分早く出社してくれと懇願してもなかなか行動を変えてくれないように、数十人以上の組織が、ちょっとやそっとで動くことはない。一部の人が動こうとしても回りが同期して動くことはむずかしい。ましてや、メンバーが自主的にかつ協調して正しい方向に進むことはとても期待できない。
部下に指示をしたが、動いてくれない?
社長の多くは、人一倍働きもので、しかもガッツがあり、社会に出てすぐ起業されたか、あるいは数年あるいは10数年勤められてから起業されたり、転職してそこで昇進し社長になられたりした方々だろう。
社長から一言指示を受けただけで、期待以上の仕事もいつもやってきた方が多いと思う。同僚が不平不満を言い続けている中、ひたすら会社のために仕事して、結果として今の地位を勝ち得た方が大半ではないだろうか。
これは間違いなく立派なことで、だからこそ、世間では、社長というと一定以上の尊敬が集まる。
ところが、経営改革が必要な段階になると、社長のこの生い立ちが大変に足を引っ張る。わかっていても、社員の誰もがせめて自分の若い頃の半分、あるいは1/4でも頑張ってほしいし、頑張ってくれるのではないかと期待してしまうのだ。
社員に対してこうなので、ましてや役員に対しては自分が言わなくても会社の経営状況くらいわかるだろうし、新たな打ち手を考えて自らアクションを取ってほしい、自分が全部言わなくても、部下をリードして会社をよくしていってほしい、と間違った期待をし、それがかなえられないので、役員に失望したり、当たり散らしたりすることになる。
そういうとき、部下の気持ちは?
そういう社長に対して、部下はどう感じているだろうか。むしろ、彼らのほうこそ、社長に対して失望している。会社の状況があまり良くないのに、調子のよいかけ声だけで具体的にどうすべきかの指示もなく、自分だけわかっているような顔をして、部下が勝手に動くことを期待している。
社長が起業した頃、あるいは社長に就任した頃から時間がたち、何もかも変わっているのに、顧客や現場の声を聞こうとしない。昔の成功体験に固執して、時代遅れのことばかり言い続ける。ちょっと突っ込んだ質問をしたり、少し違うことを言おうものなら、非常に機嫌が悪い。
部課長も今のままでよいとは決して思っていないが、社長が具体的に指示をしないし、結構ずれているし、自主的に動こうとしても他の部門が簡単には協力してくれないので、動きようがない。無駄な努力はしたくない。やってみたものの、とてもじゃないが、社内の調整まで自分が全部やるわけにはいかない。進めようとすると、他の部門の人は、「それって本当に社長が望んでいることなのか。社長はちょっと違うことを考えているみたいだが」と茶々を入れてくるので、摩擦を生じる。
問題意識が強い一般社員が何かやろうとしても、上司が簡単には合意してくれない。社長の本気度を疑っている上司は、若い社員の純粋な気持ちがいかにつぶされるか知っているし、面倒なことに巻き込まれたくないので、お茶を濁したり、適当に握りつぶしたりしてごまかそうとする。
役員も同じだ。「部課長はともかく、役員ならもっと動いてくれるのではないのだろうか。何しろ、役員だし、年俸もそこそこ払っているし」というのが社長の期待だろうが、彼らも気分は管理職と大して違わない。社長の普段の言動をより近くで見ている分、社長の本気度や、言行一致度を疑っている場合も大いにあるだろう。
「今まで何度言い出して、そのたびに尻すぼみになったことか」「今回信じて動いても、いつハシゴをはずされるかわかったものではない」というのが大半の役員の率直な気持ちではないだろうか。
経営改革を進めるために部下にどう動いてもらうか
何が悪いのだろうか。社長の指示のしかたか?普段の言動か?情報共有のしかたか?組織のあり方か?たいていの場合、全部悪い。元は悪くなかったとしても、経営改革が必要になるまでには、相当劣化してしまっている。成功体験を捨て、ゼロベースで見直さなければ到底立て直せない状況になっていることが多い。
経営改革を進めることがどのくらいの難易度かと言えば、英語が非常に苦手な社長が、3ヶ月間、毎朝1時間半早く起きて英語を必死で勉強し、土日は毎日6時間、英語漬けになった結果、米国企業と何とか英語で提携交渉ができるようになるくらい、とでも言えば少しイメージが湧くだろうか。
一定期間、真剣に取り組めば、その努力に比例して結果が出る。決して、宝くじのような運まかせではない。ところが、社長が努力せずに号令をかけているだけだと、ほとんど何も進まない。こちらは社長なのだから、部下に指示・命令すれば当然動くはず、ともし思っているとしたら、特に経営改革に際しては、100%その幻想を捨てるべきだ。上述した理由により、部下は動かない。動けない。
では、どうやったら部下は動いてくれるのか。私はまさにこの仕事に30年近く取り組んできた。マッキンゼーでの14年間とそれ以降、経営改革についてはあらゆる努力をし、苦労をし、社長の努力を支援し続けてきた。
その結果、わかったこととして、経営改革を進めるには、徹底した体系的かつ専門的な取り組みと、以下すべてに対する数年に渡る努力がどうしても必要だ。一部だけとか、短期間だけとかだと、クリティカルマスに到達しない。
- どうやって経営を立て直すのかビジョンと戦略の変更をし、全社員へ繰り返し伝える
- 既存事業の抜本的改善に向けて、詳細なアクションプランを作成し、厳しい進捗管理をする
- 複数の新規事業の立ち上げを進める
- 幹部人材の把握と業績・成長目標の合意を進める
- 部下育成への意識づけとノウハウ共有を全社的に定着させる
- これらすべてをお膳立てし、推進する「経営改革推進チーム」を選抜し、教育、実践を重ねる
魔法でも何でもない。やればやるだけ結果が出る。ただし、これらを同時並行的に進めていく必要がある。それには、社長の長期にわたる本当の意味の本気度が必要であり、問われ続ける。適当にお茶を濁せるものではない。
詳細は、『経営改革を進める「7つの鍵」とは?』の8つの記事に書いたので、ぜひご覧いただきたい。ご意見、ご質問は akaba@b-t-partners.com までお気軽にお寄せください。すぐにお返事します。
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