→ Read English translation: The Fifth Key: Human Resource Development Committee
「経営改革を進めるには7つの鍵を同時に開けること」という提案をさせていただいた。今回は「経営改革を進める第5の鍵: 幹部人材の把握と業績・成長目標の設定、成長への取り組み-人材開発委員会」について、詳しくご説明したい。
優秀人材の把握
経営改革に際しては、最初に社内の人材把握を行うことが望ましい。会社のサイズにもよるが、部長が数十名以上いる場合、部長、課長の中にどういう有望な人材がいるか、社長が全貌を把握することはそれほど容易ではなかった。
部長の顔と名前は一致するだろうが、強みが何で、リーダーシップがどのくらい強く、経営改革でどのくらい貢献してくれそうかに関しては、あまり見えないのではないだろうか。ましてや、課長の顔と名前になると一致しづらいし、強みはもっとわからなくなる。
ところが、経営改革を強力に推進してくれるのは、まさに部課長層であり、彼らが現場を引っ張るかどうか、現場の反対を押し切って進めてくれるかが鍵になる。
そう考えると、経営改革を進めるにあたってリーダーシップの強い、志の高い部課長を把握することが非常に大切だ。彼らは必ずしも口が立つわけではなく、事業本部長あるいは事業部長はある程度把握しているものの、隠れていることが実は多い。
また、事業本部長あるいは事業部長自身がどのくらい経営改革の重要性を理解し何としても推進しようとしているかどうか微妙な場合もあるので、彼らの申告の全部を信じることはできない。
したがって、経営改革を現場で進めたり、経営改革推進チームとして進めたりできる優秀な人材を見つけ出し、業績・成長目標を明確にして、今後どう活躍してもらい、どう最速で育てるか、社長を含む経営幹部数名からなる人材開発委員会を開催し、合意形成を図ることが望ましい。
人材開発委員会の運営
人材開発委員会は、社長・経営幹部数名を委員とし、執行役員・部課長の育成方法について順に討議していく。各委員は、事前に本人にインタビューして業績・成長目標合意書を作成し、委員会で発表する。
長所、成長課題、業績・成長目標、課題への取り組みを1人あたり4,5分で発表し、数分ずつ議論する。経営改革を推進しうるかどうか確認し、本人の資質に合わせた具体的なアサインメント案と育成策を議論する。
何度も運営した結果、事前の業績・成長目標合意書の準備がしっかりでき、委員も慣れてくると、1人あたり合計7, 8分でも十分な討議ができる。それ以上かかる場合は、むしろ、担当委員による把握が甘く、他の委員からの突っ込みにうまく答えられない時に起きがちだ。
人材開発委員会で全員の育成討議を終了後、経営改革を推進できる幹部人材が全体で何人いて、どれだけ活用されているか、どこまで経営改革のアクセルを踏めるか、全体像を確認する。要は、戦いを前にした、味方の勢力の棚卸しだ。
人材開発委員会終了後、本人にフィードバックし、業績・成長目標とアクションに対して改めて明確に合意する。
人材開発委員会は、通常行われている人事評価会議等とは異なり、あくまで経営改革を推進できる強力なリーダーを発掘し、本人の適性に合わせてアサインし、育成加速策を議論するためにある。
その意味では、人事部が仕切るのではなく、むしろ社長、あるいは社長の右腕である副社長レベルの経営幹部がリードする方がフィットする。
業績・成長目標合意書
人材開発委員会前に用意する「業績・成長目標合意書」の左上には、長所を具体的に7,8個書く。例えば、
・反対を押し切って改善活動を進めることができる
・コミュニケーション能力に長けており、反対者でもうまく意思疎通しながら動かすことができる
・全体像を理解しながら、細やかな神経で業務を遂行することができる
・部下育成にコミットしており、優秀な部下を何人も育てた経験がある
などになる。
左下には成長課題を具体的に5,6個程度、書く。例えば、
・数名ならよいが10名を超える部下に対して、強いリーダーシップが発揮できない
・反対する人がいると、急に元気がなくなり、業務遂行が遅くなる
・書類作成はよいが、説明能力に自信がなく、うまく説得することができない
・1人での業務遂行は問題ないが、部下育成への関心が薄い
などになる。
右上には業績目標と成長目標を書く。業績目標は社内で予算として割り振られたものと、経営改革上の取り組みを書く。成長目標は、左下の成長課題に対応させて、具体的にどこまで改善するかを書く。
右下には、成長目標を達成すべく、成長課題にどう取り組んでいくかを「本人の取り組み」と「上司の支援、コーチング」に分けて記入する。この「業績・成長目標合意書」の特長として、この二者が同時並行的にどういう努力をすべきかを明示する点がある。
これらを上司が記入する。慣れると30分もかからずに記入できる。部下を普段からよく観察し、育てようとしていないと書けないので、上司にとっても部下育成について改めて確認するよい機会となる。新任などどうしてもわからない時は、面談時にそのように説明し、部下から直接聞きながら書き入れ、確認すればよい。
人材開発委員会後のフォロー
人材開発委員会での討議後、各委員は短時間の面談を設定し、本人にフィードバックする。経営幹部がどう評価しているか、どういう視点で議論したかなど、本人にとっては非常に気になる重要なフィードバックなので、終わり次第、極力早く実施する。
社長を含む経営幹部が自分のことを議論してくれる場は通常ほとんどないので、非常に感謝されるし、会社へのロイヤリティーも上がるいい機会となる。
面談を通じて、改めて経営改革で1人ひとりが果たすべき業績・成長目標がはっきりと認識され、より強くコミットされることになる。
人材開発委員会のメリット
人材開発委員会の開催により、執行役員・部課長が経営改革でどういう役割を果たせそうか短時間で把握するとともに、経営幹部間で共通認識を作ることができる。
しかも、このプロセスで、社長は経営幹部全員の経営改革へのコミットメントを改めて強化し、会社全体での改革への気運を盛り上げていくことができる。
経営幹部の経営改革への姿勢、部下育成への姿勢もディスカッションの中ではっきり見えるので、社長には多くの発見があるはずだ。
経営改革を託せる人材がはっきりと浮かび上がり、頼れる人材と頼れない人材が明確に区別できる。
こういう意味では、昇進や昇給を決める通常の人事評価のアプローチとは全く異なり、経営改革を進める上での重要な鍵となる。
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