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素早い仮説構築・検証・修正による商品開発 実践的リーンスタートアップ

素早い仮説構築・検証・修正による商品開発 実践的リーンスタートアップ

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップとは、トヨタのリーン生産方式に感銘を受けたエリック・リース氏が、サービス開発に関しても同じアプローチを取れるのではないかと考えて提唱した考え方で、同名の著書がベストセラーとなった。

ごく簡単に言うと、仮説を素早く立て、最も重要な機能のみ簡単に実装し、ユーザーで実験する。ねらいがはずれたらさっさと方向転換をして、成功するまで改善していく。

米国では2005年前後から急激に主流になっており、その後世界中に広がっている。

リーンスタートアップのアプローチによって、米国のIT・ソーシャルメディア系では資金をあまり必要としないベンチャーが増え、ベンチャーキャピタルが本来ねらった額を出資できずに困っている。ベンチャーとベンチャーキャピタルの力関係が大きく変わった。

 

リーンスタートアップが可能になった背景

リーンスタートアップが特に広まったのは、2007年5月からFacebookがAPIを公開した(本人が許可すれば、Facebookの友達情報や行動履歴等をアプリ側に無料提供する)ことが大きいと考えている。この結果、一定以上の質のアプリを短期間で作ることができるようになった。Twitter、Foursquare等、その後のサービスも続々とAPIを公開し、新しいアプリ開発を促進した。

第二に、2008年7月のAppStore公開、Androidマーケットの発展等がある。その後の爆発的成長は言うまでもないが、スマートフォン自体、2012年には世界で7億台超が出荷された。2013年第二四半期の世界スマートフォン出荷台数は前年同期比52.3%増であり、成長はますます加速している。まもなく10億台を超え、数年以内に世界の人口70億人の数十%に達することは間違いない。日本において2013年度には3160万台のスマートフォンが出荷される見込である。

そういった状況では、優れたアプリはあっという間に数百万~数千万ダウンロードされる。LINEは今年1月に1億ユーザーを突破してからさらに加速し、6月には2億人を突破、年内には3億人を超すと思われる。

第三に、安価で非常に使いやすいクラウドの存在がある。サーバー知識や運営体制に若干の不安があっても、アプリ・サービス開発者はインフラ技術者の力をそれほど借りることなく開発をし、極めて安価に運営できることになった。

第四に、開発環境がどんどん改善され、従来に比べて開発がはるかにやりやすくなった。フレームワーク・ライブラリー等の整備により、それほど経験のないエンジニアでも、何とかアプリ・サービスの開発をすることが可能になった。経験のあるエンジニアにとっては、ハッカソン等で24時間で一つのアプリ・サービスを完成し、競うなど、極めて効率的な開発が可能になっている。

第五に、Facebook、Twitter等のソーシャルメディアの普及で、よいアプリ・サービスは一瞬で広まる時代になった。ユーザーがアプリを使った情報がFacebookウォール、Twitter等にほぼ自動的に流れて友達・フォロワーの目に触れる。また、よい記事はよく読まれ、Twitterでリツイートされることが非常に増えて、ブログを書く意欲が大変高まっている。したがって、アプリ・サービスに感動すると、ブログに書いたり、Facebookでシェアをしたりで、あっという間に記事が広まっていく。

第六に、少額出資するY Combinator、500 Startupst等のインキュベータが米国に多数生まれ、優れた起業家にとってリーンスタートアップが非常に容易になった。その流れが中国、インド、韓国、英国、ドイツ、ロシア等世界中に広がっている。国内にもこの2年ほどで多数生まれた。

 

リーンスタートアップのステップ

リーンスタートアップは実は簡単ではない。ただ早くやればいいというものではなく、次のステップを踏む必要がある。

①顧客・ユーザーが泣いて喜ぶ価値仮説と、1人の顧客・ユーザーが3人呼んでくれる成長仮説を立て(それぞれ1000字で)、
②それぞれにターゲットとすべきKPI(Key Perfomance Index = 経営指標)を5~6個設定し、
③仮説を検証するための必要最小限のMVP(Minimum Valuable Product = 実証ミニプロダクト=必要最小限の機能のみを実装したサービス)を最速で構築し、
④ユーザー候補を何名か確保して最速で検証し、
⑤ターゲットKPIを満たさなかったらすぐ仮説を修正して(微妙にピボットする)、
⑥ターゲットKPIを改めて設定し、
⑦MVPを修正・再構築し、
⑧再び最速で検証する → ⑤に戻る(何度か繰り返す)

「顧客・ユーザーが泣いて喜ぶ価値仮説」とは、そのサービス・アプリを知って、話を聞いて「え? それが欲しかった! いつできるの? どこで手に入るの?」と驚喜するような価値のことを言う。

例えば、糖尿病が悪化しないよう食事療法に大変な気を遣っている方と家族にとっては、体調悪化を警告するモニターや対応の仕組みがあれば非常に嬉しい。命にも関わることなので絶対欲しいと思うし、アプリ・サービスがリリースされればすぐ飛びつくだろう。命に関わることはもとより、ゲームでもソーシャル系のアプリでも「これ、絶対欲しい!!」と思えるものは何かということで考えを深めていく。

 

価値仮説を書き第三者に見てもらうとすぐわかるが、200~300字程度だと具体的に書ききれない。迫力ある形で表現できない。1000字ほど書くと、相当詳細に表現でき、ターゲットセグメントの顧客・ユーザーに響くし、当事者以外の人にも「そうだろうなあ。自分は対象ではないけれど、欲しい人は絶対欲しいだろうなあ」と十分思えるようになる。

ちょっとしたことだが、このくらいの分量の場合、4~5個のパラグラフに分けて書くと内容が伝わりやすい。14フォントで書くとパワーポイント1ページにちょうど収まるし、顧客・ユーザー候補の方に見ていただく際も見えやすい。

「1人の顧客・ユーザーが3人呼んでくれる成長仮説」とは、ただFacebookで「いいね!」をクリックしてもらう、という程度ではなく、1人の顧客・ユーザーがそのアプリ・サービスに感動し、大変に喜んで少なくとも3人以上の顧客・ユーザーに話し、強く勧め、広めてくれる状況を言う。

価値仮説よりかなりむずかしい。例え自分が気にいったとしても、よほどのことがない限り、人には勧めてくれないからだ。「え? こんなサービス使ってるの?」と言われないかという心配もある。

アプリ・サービスによって違うので一概には言えないが、直接的でわかりやすい例をもし挙げるならこうなる。魅力的な出会いがかなり確実だと思われる合コンアプリがあり、5人集まればエントリーできる、という場合、必死になって仲閒を探し登録させることになる。これが多分一番強力なものだろう。一方、友達を招待するとクーポンをもらえるとかは一番弱いものになる。

価値仮説、成長仮説それぞれにターゲットKPIを5~6個設定する理由は、そうしなければ仮説検証に必要な多面的な確認ができないからだ。価値仮説であれば、「初見ユーザーの登録率」、「登録ユーザーのその日の滞在時間」、「翌日継続率」、「3日後継続率」、「アイテム購入率」等になる。

それぞれ適切と思われる数字を設定する。成長仮説であれば、「ユーザー一人あたりの友達招待数」、「ユーザー一人あたりの新規ユーザー獲得数」、「ユーザー一人あたりのコミュニティ投稿数」、「ユーザー一人あたりのバーチュアルギフト購入率」等になる。

MVP構築で重要なのは、仮説を実証するために本当に必要最小限なもののみに絞ることだ。社長・プロジェクトリーダーが厳しく絞り込まないと、どうしても過大であり本格的なものになってしまう。開発者は、みっともないことはできない、と仮説検証に必要のない機能まで織り込みがちだからだ。どれを切ってもよいか、簡単には切り捨てられないからだ。リコメンデーション機能の代わりに人がせっせと裏側で作業してよいとは考えにくい。

MVPの機能をただ絞り込むだけではなく、もっと割り切った方がよい場合もある。スマートフォンアプリの場合、PC上で代用しても十分なことは多い。アプリではなく、ウェブ上で簡単に表現できることもある。実際に動くMVPを作ることが大変過ぎる場合は、パワーポイント等による紙芝居や、簡単な動画を作って確認すれば済むこともある。

Dropboxは、技術のアーリーアダプターをターゲットにセンスのよい動画を作成した。話題になり、数十万人がアクセスし、β版の予約が一気に7万5千人となった。

リーンスタートアップにおいて「お金をあまりかけない」とか「素早い」というのはあくまで結果であって、本質は、「非常によく考え抜かれ洗練された、確率の高い商品開発プロセス」だと理解するとわかりやすい。

 

日本では、ベンチャーによっては素早い開発はもちろん実践されているが、仮説を明文化し、KPIを設定し、割り切ってMVPを作って検証する、突き詰めた商品開発プロセスについてはこれからだと考えている。

 

リーンスタートアップ改め、超高速仮説構築・検証・修正による商品開発

「リーン」な「スタートアップ」ということで「リーンスタートアップ」と呼ばれたが、上記の本質と本当のメリットを考えると、私は少し別の名前で呼ぶ方がいいのではないかと考えている。

リーンスタートアップ改め、「超高速仮説構築・検証・修正による商品開発」だ。この方がはるかに本質をとらえ、どう行動すべきか明確に示唆するのではないだろうか。

価値仮説と成長仮説を考え、さっさと検証し、だめなら修正し、やり直し、すごい勢いで商品開発を進める。「リーン」から思い浮かべる「お金をかけない、早くやる、効率的」ということよりは、仮説構築・検証の回転を上げ、極めてスリムで身軽で素早い商品開発を進める方法だ。

企画・開発者にどれほど思い入れがあっても顧客・ユーザーのニーズはわからない。むしろ思い入れがある分、はずしてしまうかも知れない。開発環境やクラウドサービス、API提供等が発展したおかげで、MVP(実証ミニプロダクト)があっという間にできてしまう今だからこそ、ユーザーに実際に使ってもらって、自らの仮説を確認することができるぜいたくな時代になったと言える。これを活かさない手はない。

 

リーンスタートアップは大企業でも、個人でも

リーンスタートアップが「超高速仮説構築・検証・修正による商品開発」だとすると、当然ながら、これはITベンチャーに限らず、大企業でも中小企業でも、ソフトウェアでもサービスでも、ハードウェアでもすべて適用できる。

ハードウェアのリーンスタートアップは容易ではなかったが、3Dプリンターの普及に伴い、物によっては安価でスピーディーな試作ができるようになった。ITベンチャーもハードウェアとの組み合わせで新たな価値を提供するケースが増えてきている。

個人で活動されておられる方でも、リーンスタートアップは非常に効率・効果の高い、新しい商品開発の手法だ。

私が支援しているベンチャー、大企業で本格的に導入しているが、非常に手応えがあり、やればやるほどノウハウが蓄積している。加速度的に知恵が増えている。

ここまでいくと、日本の伝統芸であったPDCA(Plan、Do、Check、Action)とはひと味もふた味も違うものであり、進化版だと考える方があっている。物あまりで不確定要素の強い時代に、あらゆる分野・あらゆる商品の開発に役立つのではないかと考え、わくわくしている。多分、商品開発に留まらない。新しい仕組み、新しい組織を作ることにも応用できそうだ。

リーンスタートアップのノウハウを共有し、お互い切磋琢磨して、ベンチャーからも、中堅企業からも、大企業からも世界で勝てるサービス・製品を生み出すきっかけになれば非常に嬉しい。

 

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