Twitter、FoursquareがブレークするきっかけとなったITの祭典であり、数万人が結集する「SXSW」が、今年は大きく変容した。2012年、2013年、2014年と3年連続でSXSWに参加したことではっきりと見えた、日本にとっての重要な意味合いだ。
従来のIT、インターネットなど、「インタラクティブ」なアプリ、サービスの紹介を超え、今後の技術、企業、産業、経済、社会の発展方向を明確に示す場になっていた。
今から思えば、昨年、若干の萌芽があった。それは、基調講演のトップバッターに3Dプリンターで急成長しているMakerBotのCEOが登場し、3Dプリンティング関連のいくつかのセッションが開催されたことだ。「ヘルスケア×IT」に関してもいくつかあった。
ただそれが、ご紹介するキーワード10個まとめてど~んと来た。これで米国企業がこれまで以上に世界の覇者になるお膳立てが揃ったと思われる。アクセルをふかせて全速力で突っ走る状況であるのだ。
SXSW 2014への日本からの参加者は決して多くはなく、報道もあまりされていない。報道されたとしても、現象面的なとらえ方がほとんどだ。
ウェアラブルもコネクテッドカーも個別には以前から報道されている。ただ、それらが津波のように押し寄せていること、米国企業を中心に今まさに数百兆円規模の価値創造が始まっていること、次のアップル、グーグル、Facebook(時価総額はアップル50兆円、グーグル36兆円、Facebook 15兆円)等が生まれようとしていること、日本とは桁外れの額がこれら新分野のベンチャーに投資されていることなどは十分に伝わっていないのではないだろうか(この記事内では、すべて1ドル100円換算とする)。
SXSW 2014で浮かび上がった状況は、日本企業、産業、経済にとって危機的であり、一部はぎりぎり間に合うかも知れないチャンスでもある。
出典: http://sxsw.com
キーワード1: ウェアラブル
最初のキーワードには「ウェアラブル」を取り上げたい。ウェアラブルに関してSXSW82014で64ものセッションが開催され、「ウェアラブルの年」という認識だった。
セッションの内容は、
●ウェアラブルが世界をどう変えるのか? おかれた状況をどこまで読み取ってくれるのか?
●ウェアラブル技術によってどういうチャレンジと機会があるのか?
●物流や学習等での3DのAR(拡張現実)など、ウェアラブルによって何が可能になるか?
●健康管理用のウェアラブルをどう使って減量、体調管理、安眠等を実現するのか?
●ウェアラブルで健康管理をどのようにやっていくのか? 遠隔治療をどうやっていくのか?
●プロスポーツにウェアラブル技術をどう活用していくか?
●ウェアラブル技術がファッションをどう変えていくか?
●莫大な数のウェアラブルが広まる中でマーケティングをどう変えていくか?
●ウェアラブルの将来: 人体埋め込み型チップがもたらす変化は?
●ウェアラブルのファッション性、趣味嗜好、機能がどういうバランスになっていくか?
●ウェアラブル時代にブランドはどういう位置づけになるのか?
●スマートグラスがどう発展していくか? コンテンツをどう作り出し、どう視聴するか?
●ウェアラブル機器を設計する上で、美しさや機能等のバランスをどう取るのか?
など、ウェアラブルが社会にどういう変化をもたらすのか、ウェアラブルがどう私たち自体を変えていくのか、そしてどういう新技術、新製品があるのかの大きく3つに分かれていた。
そのどれもが、「身につけるハードウェア」という単体のものではなく、すさまじい量のデータをどう把握・分析し、プラットフォームとしてどういうサービスを提供するか、どう表現することでうまく活用するかに焦点が当たっている。
ウェアラブルは、次に述べる「IoT(モノのインターネット化)」のうち、身につけるものが対象であり、「デジタルヘルス」の重要なインプット手段、という位置づけにある。
ウェアラブルで注目された一つが、心臓の鼓動でユーザー認証をする「Nymi」だ。リストバンドとして着用している限り、自動車、スマートフォン、タブレット等のパスワード等の入力が不要になる。ジャイロセンサーを搭載しているため、自動車のボンネットを開けたり、ドア操作をしたり、支払いも自動で行うことができる。バーで好みの調合のカクテルを黙っていても出してもらうこともできる。
今年後半の発売に向けて、8000個以上を先行受注している(1個79ドル)。
スマートフォン、タブレット、PCも、手に取ったり近づくだけで自動的に個人認証できるので非常に便利だ。自分が自分であることをいっさいの操作なしで伝えることができる。
Nymiにおいては、ユーザーデータをクラウドに保存しないこと、どの機器との認証をするかすべてユーザーが指示すること、ユーザーデータをマーケティングデータとして販売しないこと、などプライバシー保持への配慮を強くアピールしている。
SXSWでは、毎年、SXSW Accelerator Awardというビジネスプランコンテストが開催され、6つのカテゴリーに分かれて、500社以上から選ばれた48社がプレゼンテーションに登場する。ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家も多数集まり、トークセッションやトレードショウに負けずに賑わっている。
今年のウェアラブル技術部門での優勝は「Skully」というオートバイ用ヘルメットだ。カメラを装備し、後方視界やナビの結果を前方のスクリーンに映してくれる。音声で音楽、天候表示、電話等すべてコントロールすることができる。
すでにオートバイメーカーとして有名なハーレーダビットソンとの提携が決まっており、早ければこの夏にテスト販売される。
優勝はしたものの、そこまで独創的、未来志向的、システム思考的だとは、正直、私にはあまり感じられなかった。特にこういった分野であれば、日本の企業、ベンチャー企業でも優るとも劣らない商品が開発できただろうと思うと、残念でならない。
ただ、日本のベンチャーはそもそもSXSW Acceleratorにほとんど応募しておらず(応募締切は前年の11月)、「日本の企業でも十分できた」と嘆いてもほとんど意味がないことはよく理解している。「iPhoneは自社でも作れた」と言う日本メーカーの愚は繰り返したくない。英語力の弱さ、グローバルな視点の弱さ、発信力の弱さにより、格好の場所へのリーチ、参戦そのものができていない状況にある。
国内のビジネスプランコンテスト、ベンチャー系のイベントでのピッチコンテスト(数分で発表)は多数行われ、VCからの出資も増えてはいるものの、ほぼすべて日本人であり、対象市場も国内を重視したものが多い。この状況を早く変えない限り、グローバルでの活躍は見えてこない。
SXSW2014は多方面で同時多発的に巨大市場が立ち上がっていることをはっきりと示しており、日本の大企業もベンチャーも乗り遅れ感が極めて強い。
この他のウェラブルとしては、
(1)ミニスカートやTシャツにLED等でディスプレイをつけ、スマートフォン操作で自分の好みのデザインに変えたり、Twitterのツイートを表示する。服が電話にもなる(CuteCircuitなど)
(2)エクササイズに取り組む健康志向の人が、よく眠れたかどうか、眠りのパターンがどうだったか、体調がどうか、その日の運動でどれだけカロリーを消費できたか等を把握し、その日の活動、睡眠時間やエクササイズを最適化する
(3)スポーツ選手のユニフォームや体にセンサーをつけて体調管理をしたり、筋力、跳躍力、走り方、腕の振り方、力の入れ方等を計測したりして、練習方法を最適化する。トップクラスの選手とそれ以外の選手の動作・筋力等の違いも把握できる。試合の交代タイミング、ゲームプランなどにも反映する
(4)キワモノではあるが、遠距離カップル向けに、スマートフォンをやさしくなでると遠隔操作で下着を通じてそのタッチを伝えるデモがあった。情報伝達だけではなく、形、動き、力の伝達も重要と考えられている。
ウェラブルの応用範囲は、めがね、サングラス、コンタクトレンズ(グーグルが特許申請中)、ゴーグル、腕時計、指輪、腕輪、首輪、ブレスレット、ネックレス、イヤリング、靴、靴下、下着、上着、帽子、かつら、マフラー、ヘルメット、マスク、サポーター、皮膚に貼付、腕に装着、太もも・足に装着など、非常に幅広く、今後、多方面での急展開が想定されている。
また、皮膚下数センチメートルにも送電できる画期的な技術により、心臓、脳、肝臓等へのセンサー、アクチュエータの体内埋め込み等も可能になりつつある。
ウェアラブルの技術上の課題に加えて早々に解決すべき課題としては、ウェアラブルなセンサーから提供される莫大なデータが誰のものか、利用に当たって、個人の意思とプライバシーをどう完全に保証するのか、個人のプライバシーを完全に保証しつつどうやって有用情報を引き出していけるか、といった点だ。
これらの課題解決には倫理やポリシーが深くからむ。実際にサービスを提供し、試行錯誤をしつつ社会として学習し折り合いをつけるべき部分があるし、データの蓄積量も重要であるため、早くスタートした企業、国が有利になる。
キーワード2: Internet of Things(モノのインターネット化)
2番目のキーワードとしては、「Internet of Things(モノのインターネット化)」をあげたい。Internet of Everythingと言ったり(シスコ、クアルコムが)、M2M(Machine to Machine)とも言うがどれも大差ないので、ここでは、Internet of Thingsに統一する。これまでインターネットに接続されていなかった多くのモノがつながり、データを発信し、種々の効用をもたらす。
●家、自動車、バイク、自転車等の鍵を落としても、どこに落としたのかすぐ見つかる
●自動車、バイク、自転車、乳母車等の盗難防止をしてくれる
●バッグ、アタッシュケース等を落としたり盗まれたりしたら、すぐその場で警告し、場所を見つけてくれる
●野球のバットでジャストミートしているかどうかその場で判定してくれる
●サッカーボールの蹴り方が適切か、その場でフィードバックしてくれる(参考)
●洗剤がなくなりかけたら洗濯機が自動的に注文してくれる
●冷蔵庫の中の牛乳がなくなってきたら自動的にスーパーから配送してくれる
●歯磨きのしかたが適切かどうか(磨き残しがないか、強すぎないか等)、歯ブラシが教えてくれる
●ドアや窓を壊そうとした瞬間に、カメラが作動して記録しつつ強盗を取り押さえてくれる
●エレベータに何人乗っているか待っているかを見て、運行を最適化してくれる
●天候に合わせ、オフィスの冷暖房・照明を調整する
●目的地に近くの空いている駐車場を順次教えてくれる
●工場のベルトコンベヤーや機械の異音、温度等を検知し、故障を未然防止してくれる
●橋梁等の構造物のボルトがゆるんできたら通報してくれる
●穀物貯蔵庫の温度や湿度を検出し、遠隔地からコントロールできる
●土壌の水分、栄養分を監視して、農作物の成長速度を早める
●作物につく害虫を監視して自動的に害虫駆除してくれる
とか、そういったことだ。
ガートナーの分析によると、2020年までに260億個のモノがネット接続され、190兆円の市場が創造される。IDCの分析によると、2020年までに710兆円の市場が創造される。
マッキンゼー報告によると、2025年までに500億個のモノが接続され、600兆円の市場が創造される。つまり、2020年までに190~710兆円の市場が創造され、260~500億個弱のモノが接続される。
Internet of Thingsの中にはウェアラブルのものもあれば、そうでないものもある。本稿では、ウェアラブルでないInternet of Thingsを主に取り上げるが、上記の調査結果等はウェアラブルのものも含んでいると考えられる。
SXSW2014では、
●Internet of Thingsを皆が理解し、使えるようにするには?
●Internet of Things普及のため、無線LAN等をどうアップグレードするか?
●高齢化社会において、Internet of Thingsが家庭での医療、介護をどう実現するか?
●Internet of Thingsが発展していく中で、ユーザー体験をどうデザインしていくべきか?
●Internet of Thingsから生まれる新しいサービスを価値あるものにするには?
●Internet of Thingsの中でも特に自動車に関してはどう発展するのか?(キーワード4を参照)
●Internet of Thingsの発展で、人と機械の関係はどうなるか? どういう法律が必要か?
●Internet of Thingsから生み出される膨大なデータは私の物か? プライバシーは?
●Internet of Thingsが今後急成長するロボットをどう変えていくのか?
●何もかもがつながってしまう社会で、どういうイノベーションが起きるか? どういうリスクがあるか?
などのテーマに関して、活発な議論が行われた。
Internet of Thingsを実現するには、
●すべてのモノに装着できる極めて安価で安定したセンサーをどう開発・調達するか?
●極めて安価でかつセキュアなネットワークをどう確保するか?
●規格が統一されていない中で多種多様な機器・センサーをどう素早く確実に接続するか?
●ユーザーのプライバシーをどう守りつつ、どうやってデータの有効利用をするか?
●Internet of Thingsからの情報により、どのように効果的な意思決定をするか?
●Internet of Thingsからのビッグデータ情報を活用する体制をどう構築するか?
についての答えが必要になる。Internet of Thingsとして、今年特に目立った動きとしては次のようなものがある。
グーグルは、無線LAN連携で学習機能付きのサーモスタットや煙探知機等のハードウェア・ホームオートメーションを提供するNest Labsを2014年2月に3200億円で買収した。Nestは2010年5月に設立で、わずか4年足らずで時価総額3200億円となった。
グーグルにとっては、本格的に家庭市場に参入するための画期的な動きと考えられる。
キーワード3: デジタルヘルス
SXSWでは「デジタルヘルス」に関して非常に多くのセッションが提供された。デジタルヘルスとは、健康維持、病気予防、治療等にITを活用することで、昨年のSXSWではあまり目立たなかったが、今年は一気に注目されるキーワードになった。
SXSW2014でのセッションの内容は、
●遺伝子情報を知ることは万人の権利ではないか? それが広く普及するのではないか?
●遺伝子情報により、発病をどう抑え、治療を効果的に進めるか?
●ウェアラブル機器によって健康・病気の診断方法が決定的に変わるが、どう活用すべきか?
●遠隔診断とどう実現していくか?
●患者との対応にアバターをどうやってうまく活用すべきか?
●高齢化時代に急増する医療費をどう抑えるのか?
●ITにより、ヘルスケアをどう革新するのか?
●ヘルスケアベンチャーはどうやって資金調達をすべきか?
●デジタルヘルスのバブルは弾けるか?
などであった。
SXSW2014の基調講演に、遺伝子情報および発病確率情報を提供する23andMeのCEOアン・ウォジツキ(グーグルの共同創業者の一人であるセルゲイ・ブリンが夫。23andMeはグーグルも支援している)が登場した。
これは、デジタルヘルスへの関心のそもそもの高さに加え、FDA(米食品薬品局)との彼女の戦いが大いに注目されていることによる。基調講演の動画もご覧いただきたい。
セッションの冒頭で、彼女は、病気の90%は予防によって避けられること、遺伝子情報がその予防治療のベースになることを訴えた。糖尿病タイプ2はその大半が避けられるし、従来不可解だったことでも、遺伝子情報を正確に把握することで解決する問題が多数あるという。
病気になってから治療するのではなく、遺伝子情報の解析によって予防できる病気が多いので、その方がよほどよいのでは、という主張だ。しかも多くの人が遺伝子情報を提供すれば、ビッグデータ的分析により精度がどんどん上がっていく。
23andMeが提供しているサービスは、わずか99ドル(1万円前後)で自分にはどういった人種の血がどのくらい混じっているのか、大腸がん、乳がん、糖尿病などになる確率が平均的な人より何十倍高いのか、どういった薬が効くとかリスクがあるといった重要な健康情報を提供する。しかも、診断キットに唾を少量入れて送付することで、何の痛みもなく、手間もなくそういった重要情報がすぐ手に入るため、爆発的に普及し、短期間に65万人のデータを集めた。
過去6年間の実績として、10年来の原因不明の胃痛の理由がわかったとか、通常は大人になるまでわからない子どもの特異体質が発見されて適切な措置を取ることができたなど、多数の改善事例が紹介された。
日本ではサービスが提供されておらず、診断キットの受け取りに米国での住所が必要なため、SXSWへの訪問時にホテルで受け取ったという人もいたくらいだ。
ただ、診断内容の精度に問題があるとして、FDAからは診断結果の提供を昨年11月から差し止められている。不正確な情報に基づいて過剰な対策を取ってしまうことへのリスクが懸念されたからだ。現在、遺伝子情報の提供だけは許可されているものの、普通の人はそれから意味合いを読みとることがほとんどできないため、23andMeはFDAに対して反論を続けている。
アン・ウォジツキの友人は祖先がアフリカ系、アジア系、欧米系からなることが示された
SXSWでの基調講演でアン・ウォジツキCEOは、
●「このままでは5年後に糖尿病になるリスクが高いという情報は知るべきだ」
●「診断内容が提供されても、一人ひとりは当然医師と相談するため、FDAが指摘しているような過剰治療的リスクはない」
●「遺伝子情報に基づく診断情報を提供できなくなって、ユーザーの伸びが大幅に減った」と訴えた。
と述べた。
最近のインタビューで、アン・ウォジツキCEOがFDAとのやり取りが進んでいること、自分の遺伝子情報を誰でも知るべきであること、ただしそれをどこまで共有するかは100%本人が決めるべきことなどを語った。
これは5月末に米スタンフォード大学で開催された、医学系のビッグデータカンファレンス(Big Data in Biomedicine)に参加した際のもので、米国政府の第二代CTOであるトッド・パーク氏や米国最高のベンチャーキャピタリストの一人であるビノード・コスラ氏も基調講演に登場しており、彼我の差を感じる。
日本でも遺伝子検査サービスを手がける会社が多数生まれており、直近ではDeNAやヤフー等の大手も参入を発表した。ただし、23andMeのように65万人の詳細な遺伝子情報と発病リスクデータを集めた圧倒的な存在はまだ生まれていない。この意味合いは、
(1)米国では、23andMeによりすでに65万人の詳細な遺伝子情報と発病リスクが把握されている
(2)遺伝子情報のパターンが近い人の発病データが多ければ、自身の将来の発病リスク等が推定しやすい
(3)その結果、米国では大腸がんや糖尿病等の予防、初期対応により発病リスクを抑えやすくなる
つまり、米国にいると病気になりにくく、予防できることが増え、日本にいると病気を防げない、という冗談にならない格差が生まれかねない。今後の日本企業の努力によるが、今現在、格差は大きい。
この他のデジタルヘルス分野、課題として私が注目したのは、
(1)腕や下着等につけたセンサーにより、疲労・体調管理、運動負荷管理に関する膨大なデータが取得され、種々の効果的な助言がされるようになる。特に、サッカー、アメリカンフットボール、バスケットボール、野球等のプロスポーツ、オリンピック選手等への応用が加速する。
肉離れ、足のつり、脱水症状、心臓麻痺なども事前に警告を出し、防止することができるようになるのではないか。元NBAのスター選手シャキール・オニールは、昨年に続いてSXSWのセッションに登場し、スポーツとデジタルヘルスの関係の重要性について語った。
(2)肥満による成人病等が世界中で深刻している。この防止のため、摂取カロリー量、運動量、ライフスタイル等に対してより効果的な助言と動機付けができるサービスが今後ますます提供される。鍵は、欲望にどう戦うか、挫折しないかという動機付けであり、発展の余地が大変に大きい。
(3)体内に埋め込まれた極小のセンサーにより、体調管理、発病予防ができるようになる。膨大なデータが日常生活の中から苦痛なく取得され、ビッグデータ的分析によって精度の高い診断結果を得ることができる。
また、医師による遠隔治療によって、遠くの人でもより安価に高度な医療を受けることができるようになる。米国の南カリフォルニア大学のボディコンピューティングセンター長である、レスリー・サクソン博士の動画をできればぜひ見て欲しい。デジタルヘルス分野での医療の今後の発展の方向がはっきりと実感できる。
(4)上記手法により、医療、治療が決定的に変わる。日常の体調情報で異常、異変がわかるので、症状が悪化する前に手を打つことができるようになる。また、体調は普段から詳細にモニターされているので、蓄積されたデータを医師が見て、判断を下すことができる。
これは、従来のように具合が悪くなったら病院に行って、長い待ち時間を経て、色々と診察をし、限られた情報の中から診断することに比べてよほど精度が上がる。しかも、医師は、本当に価値のある診察、診断、治療に専念できる。医師と病院の役割が大きく変わる。生活者も、時間をかけて病院に行く手間、頻繁に行く手間を大幅に削減できる。
(5)従来できなかった新しい手法が次々に開発され、普通に生活している中で病気を早期に発見することができるようになる。例えば、息の分析により、肺がんを従来より早く見つけることができるようになる。あるいは、スマートフォンを使って、唾、尿などによる検査を手軽に実施するサービスも始まっている。
(6)SXSW2014のベンチャー育成プログラムのヘルスケア部門で優勝したのはThriveOnというメンタルヘルス系のベンチャーだった。気分、ストレス、心配事、体のイメージ、睡眠状況の5カテゴリーに関する回答を分析し、個人の状況に合わせたコーチングを提供してくれる。
ストレスからうつ病になる人がどこの職場でも多いし、厚生労働省のデータによると精神疾患の患者数は2011年に320万人にものぼる。しかも、5年間に47%も増加しているため、デジタルヘルスへの期待大である。
キーワード4: コネクテッドカー、自動運転車
SXSW2014では、「コネクテッドカー」と「自動運転車」についても、多くのセッションが行われた。
●何年にもわたる自動車の開発サイクルとスマートデバイスの開発サイクルの違いをどう埋めるか?
●コネクテッドカーとしての理想のユーザーインターフェースとはどういうものか?
●コネクテッドカーとしての機能が運転中の不注意を引きおこさないため、どうすべきか?
●コネクテッドカーは、走行距離に合わせて保険を支払うのか?
●60%の車がコネクテッドカーになる2017年までに、自動車メーカーは種々の課題をどう解決するのか?
●コネクテッドカーは、個人のプライバシーをどう守るのか?
●自動運転車によって、我々の生活と社会がどう変わるのか?
●自動運転車によって、道路清掃等公共サービスが今後どう変わっていくか?
●自動運転車が旅行や通勤、住居選定にどういう影響を与えるのか? 短中長期的な影響は?
コネクテッドカーは、PCがネットワークにつながって多くのサービス、アプリケーションを使えるようになり、スマートフォンが同じく電話機能を超えて多くのサービス、アプリケーションを使えるようになったのと同様、自動車がネットワークに直接つながって多くのサービス、アプリケーションを使えるようになることを指す。
この分野で先行しているフォードでは、340万台以上のフォード車が車載コネクトシステムSYNC AppLinkを利用できると発表している。SXSWのセッションでは、コネクテッドカー1台につき、毎時25MBのデータが得られ、それを活用することで、新しいサービスが提供できることについて議論された。
ワイパーの稼働情報から、精度が高い局地および広範囲な地域の天気とその変化がわかるようになったり、きめ細かな渋滞情報、道路の破損情報等を利用できるようになったりである。
一方、車から有用な情報を提供する代わりに、ドライバーがどういうメリットを得られるのか、車の費用の一部を負担してもらえるのかという点や、システムのセキュリティ対策がPC等と比べられないほど重要である点も議論された。
運転中の携帯電話、ナビ、音楽プレイヤー操作等が原因で、運転事故が起きる。米国の高速道路での事故の分析では、携帯電話でのテキストメッセージングにより事故が23倍増との結果が出ている。
コネクテッドカーにおいては、ドライバーの注意を決してそらさないこと、またドライバーが運転に集中することで、運転中の電話やメッセージングによる事故を減らすことが大前提になる。加えて、ドライバーは車の運転のしかたがスムーズかどうか、どう改善すべきかといったフィードバックも得られる。
米国では、市街地の渋滞のうち30%が駐車場のスペースを探し回る車が原因だと言われており、コネクテッドカーで空車のある駐車場の情報を提供できれば、渋滞もガソリンの無駄使いもかなり改善する。
また、駐車場所から目的地までのナビゲーションだけではなく、駐車場に入った段階でミーティングの相手に到着したことを自動で知らせたり、会議室の場所等を車やスマートフォンに指示してもらったりすることも可能になる。
米国では、ニューヨークやサンフランシスコ、シカゴ等一部の大都市を除いて車での移動が一般的で、シリコンバレーでもミーティングに車で出かけることが普通なので、コネクテッドカーによるこういったサービスが大変便利であるし、新しい事業機会が続々と生まれてくる。
コネクテッドカーに関しては、アップルが3月3日に車載システムCarPlayを発表し、フェラーリ、メルセデスベンツ、ボルボ、ホンダ、現代自動車等の対応車両で2014年から利用できるようになる。BMW、フォード、日産、三菱自動車、スズキ等も対応の予定だ。トヨタの対応車両は2015年に発売との発表があった。
iPhoneに限らず、これまで、せいぜいスマートフォンを社内に持ち込んで使う程度から、車そのものがオフィスやリビングルームの延長線上になるだけではなく、全く新しいサービスが提供されるようになる。
その際たるものがV2V(車間)コミュニケーションで、交差点等での事故を大幅に削減することが期待されている。米連邦交通省がV2Vコミュニケーション衝突防止装置の搭載にゴーサインを出した。ぶつかりそうな自動車同士が瞬時に通信を行い、互いにブレーキをかける。
コネクテッドカーは、特に交差点での出会い頭の事故防止が期待されている。
出典: http://www.geeksandbeats.com
コネクテッドカーより数歩進んだ自動運転車としては、グーグルカーが著名だ。自動運転あるいは自律運転、ドライバーレス運転と言っているが、実際はドライバーが運転席に乗車しており、いつでもハンドルを切れる状況で自動運転を見守っている。
すでにレクサスの試験車24台を使ってテストを繰り返しており、5年間無事故で110万km走破している。この分野の第一線の研究者、技術者を引き抜き、徹底した姿勢で研究開発を続けており、自動車会社にとっては大変な脅威になっているはずだ。地球上のすべての情報にインデックスをつける決意で突っ走っているグーグルが、今度は自動車の自動運転化に全力投球しているのだから。時価総額39兆円のグーグルに買えないものはほとんどない(時価総額は2014年6月13日現在)。
グーグル以外にも、GMやトヨタ自動車が自動運転車の試験を続けている。マニュアル車から大半がオートマチック車に切り替わったように、人が運転する車から、自動運転車への変遷が近い将来確実に起きる。ある時点で、注意散漫な人間が運転することを政府が禁止する時代がやってくると考えられている。
毎年、米国では3万3000人、世界中では120万人が交通事故で死亡しており、その9割が人為ミスと言われている。自動運転車になればそれが激減すると期待されている。
また、自動運転車の場合、前後左右の車間距離が小さくできるので同じ道路でも通行量を大幅に引き上げることができる上、交通事故に起因する道路混雑も格段に減る。自動運転車であれば、わき見渋滞もなくなる。
車同士の通信や車とインフラの連携によって、高速道路や幹線道路の渋滞も75%以上減るという報告もある。
人間のドライバーは目の前の車のブレーキに過剰反応して玉突き事故を起こしたり、渋滞を引き起こしたりするが、コネクテッドカーであり自動運転であれば、数台前の自動車の状況に合わせて後続の車のブレーキも最適な制御が可能になるからだ。
今年9月から、カリフォルニア州では自律運転車および運転席に着席しているテストドライバーに免許を与えることになった。自律運転車をテストしたい製造メーカーは、申請費用150ドルで、自律運転車10台とテストドライバー20人の免許を申請できる。免許は7月から申請開始になる。
グーグルは、さらにハンドルもアクセルペダルもブレーキペダルもない、自動運転車のプロトタイプも発表している。
出典: http://japanese.engadget.com/2014/05/28/google/
屋根の上でくるくる回るセンサは死角がなく、全方位に200m程度の範囲内で障害物や自動車、歩行者などを認識する。グーグルは今後このプロトタイプロボットカーを100台生産する予定で、今年の夏にはマニュアル運転も可能なバージョンに非常時用の人間ドライバーを乗せて試験走行を実施する計画という。
運転に必要とされる技能のうち「不断の注意力」や「高速な反応」、「広範囲の状況認識」などは、体調の波も個体差も大きい人間の眼と脳よりは、もともとセンサとコンピュータに向いたタスクだという考えに基づく。
グーグルが現在のハンドル、アクセル、ブレーキつきの車の自動運転の実験に加えて、ハンドル、アクセル、ブレーキのない車の自動運転に踏み切ったことは、彼らの壮大なビジョンと、本気度の表れであり、日本の自動車メーカーにとっての大変な脅威である。グーグルのユニークな視点と戦略方針に関しては、TechWaveの湯川鶴章氏のこちらの記事に詳しい。
しかも、米国政府は、自動運転車の開発に対して総額1600億円の融資を提供することを示唆した。これにより、開発がさらに加速されると考えられる。
一方、欧州においては、メルセデスベンツ、ボルボ等がテスト走行を繰り返しており、米国よりも先に普及するのではないか、という見方もある(参考)。
さて、自動運転車の普及上、法整備および自動車保険に関する大きな課題がある。
自動運転車で交通事故が発生した場合の責任が自動運転を補助する立場にある乗車している運転者にあるのか、自動車メーカー、関連機器メーカーにあるのか明確な線引きが必要であるからだ。
また、自動運転により、交通事故が大幅に減ることが予想されるため、損害保険会社は新たなリスクへの適切な保険の提供という事業機会がありつつも、経営基盤そのものが揺らぐと想定されている。
運転中に気が散ったり判断ミスが多い危険な人間が車を運転して、毎年何十万件も人身事故を起こしていた、野蛮な時代があったんだと子ども達に笑われる時代が来ると思われる。飛行機や電車では自動運転がすでに大幅に普及しており、事故を防止していると同時に、利用者は移動中にいっさい運転に関わることなく時間を使うことができている。それに近いことが、自動車でも10年たたないうちに実現する。
出典: http://sxsw.com
キーワード5: ロボティクス
SXSW2014では、ロボットに関して20近くのセッションが開催された。
●ロボットが労働力の代わりになるか、我々の仕事はなくなるのか、どう変わるのか?
●外科手術においてロボットがどう活用されるのか?
●クラウドの活用によりロボットの知恵が集合としてどう改善されるのか?
●目の不自由な人にどう視界を提供するのか?
●農作業をどうロボット化していくのか?
●ゲームがロボットとAIによってどう変わっていくのか?
倫理的かつ心理的側面からの議論は、こちらにも詳しい。
また、Amazonの配達で話題になった無人航空機であるドローンに関しても、利便性と監視、プライバシーといった倫理的、社会的視点から議論された。
ドローンはもともと兵器として開発されてきたもので、平和に慣れた日本人には、その背景や今後への意味合いを掴みづらいかも知れないので、こちらの記事をぜひ見てほしい。
SXSWでは、米国の警察官が使うスタンガンよりも高電圧のスタンガンを装備したドローンのデモがあった。日本では考えられないが、飛行しているドローンから、観衆の前で実際にスタンガンをその会社のインターン生に向けて作動させ、電気ショックを与えた。
この会社の創業者は、「自宅が強盗などに襲われた時、ガードマンよりもこのドローンの方がはるかに安全で効果的だ」と語っている。もし警察が到着するまでの間にまた動き始めたらスタンガンをもう一発お見舞いするとのこと。倫理的観点あるいは社会通念上も、日本では議論自体もしづらいレベルだ。
ロボットに関しては、昨年12月から今年1月までの2ヵ月間に、グーグルがロボットベンチャー7社+人工知能の会社1社を買収し、大変話題になった。
出典: http://itpro.nikkeibp.co.jp
特に、そのうちの1社が東大発ベンチャー「SCHAFT(シャフト)」であったこと、SCHAFTは米DARPA(国防高等研究計画局)主催の災害救助ロボットコンテストで優勝したこと、などで大いに注目されていた。
SCHAFTは国内でVC10社や産業革新機構に出資を求めたが不調に終わり、DARPAの開発資金や共同創業者が関わっていた投資ファンドから資金を得て試作機の開発にこぎ着けた。そこに、グーグルが目をつけ、素早く買収したという経緯だ。
日本の科学技術力がもし高い場合でも、それを商業化する際にシリコンバレーのように開発資金がふんだんに提供されなければ、実現できない。実現できないどころか、国内の優秀な技術シーズが続々とグーグル、アップル等の米国企業に買われる危険が大いに高まっている。
これまで米国のイノベーションについて語ってきたが、最近、EUは世界最大の民間ロボット開発計画を開始した。EUは、ロボットの世界市場が今年の3兆円から、2020年には8兆3千億円に伸びると考えており、欧州がロボットの新製品や技術をリードすることをねらっている。
6月3日、欧州委員会と180の企業と研究機関(euRoboticsの下に結集)が、Sparcという研究・開発計画を開始し、製造業、農業、保健、運輸、市民社会セキュリティ、家庭を対象としている。欧州委員会、euRobotics合わせて3,900億円を投資する計画で、欧州で24万を超える雇用の創出とともに、国際市場における欧州のシェアの42%への拡大を目指している。
翻って日本では、6月5日、ソフトバンクは感情移入ロボットを来年2月に19万8千円で発売する、と発表した。フランスの技術を使い、台湾で生産する。製品価格は、月額使用料等を前提にした、赤字設定だと考えられている。
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