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経営改革を進める第1の鍵: ビジョンと戦略の変更、全社員への浸透

経営改革を進める第1の鍵: ビジョンと戦略の変更、全社員への浸透

※「gettyimages」より。ソニーのウォークマンはかつて市場を支配した。

→ Read English translation: The First Key: Change Vision and Strategy, and Let Everybody Know

経営改革を進めるには7つの鍵を同時に開けること」という提案をさせていただいた。そのうちの第1の鍵について、詳しくご説明したい。

経営改革を進めるには、現実を直視し、顧客、自社、競合の最新状況を踏まえて会社のビジョンと戦略を考え直すことが出発点になる。見たくないものを見ることになるので、苦痛を伴う。

これまでの成功のもとになった過去の事業基盤がどう変わったのか、新たにどうすべきなのか、これらをゼロベースで考え、再構築することなくして組織のベクトルの方向を変えることはできない。

社長は、自社が今後どうやって大きな利益を上げるのか、どうやって再度成長するのかを整理し、強力に打ち出す必要がある。業界1位に安住しているうちに、ドル箱だった市場セグメントが急減したり、新たな競合が出現したり、多くの脅威が生まれている。

失われた競争優位性をどうやって取り戻すのか、どういう戦略転換をするのか、社長自ら既存概念を打破し、新しい方向を示して全社員への浸透を図る。

現実を直視し、最新状況を整理すると?

長年そこそこに続いていた利益が近年、急降下した場合、社長は強い危機意識を持つ。ただ、危機意識は持つものの、為替変動による売上減少、原材料高騰、業界全体の不況、顧客自身の不振、ヒット商品の不足、代替品の伸び等、利益低下要因がどう絡んでいるのか、正確に把握できていないことが実は多い。特にどの部分が急降下したのか、いつから悪化したのか、ということになると、かなり多くが闇に包まれている。

事業を率いる社長の立場からは、問題があまり目立たず進行し、気づいた時には手の打ちようがなくなっていることがいちばん怖い。ほかの事業が一時的に伸びていたために強いと思っていた事業、顧客セグメントが実は急降下していることに気づくのが、何ヵ月も、場合によっては何年も遅れてしまうことだ。

そうやって気づいた時には、かなり手遅れで、何をやろうにも負の状況からのスタートになる。事業を多数抱える中堅・大企業の社長には、特に「正確な情報」「経営の舵取りという意味での重要情報」が意図して隠されたり、あるいは意図したわけではなくても見過ごされて上がってこなかったりすることが多いのではないか。中堅・大企業にかぎらず、中小企業でも、社長が「お山の大将」になっていることが多いので、残念ながら似たような問題が起きる。

企業規模がどうであろうと、経営改革を進めようとする社長は、まず第一歩として、少なくとも過去5年間の事業収益の中身がどういう構成比になっているか、いくつかの軸で切った時の特定のセグメントが急激に落ちていないか、何かの変化をほかの数字が一時的に隠していないかを自分の目ではっきり確認する必要がある。

「見たくない」あるいは「面倒くさい」と思うものが、まずはあやしい。「大丈夫だ」と思っていたことをまず疑ったほうがいい。思考停止になった部分には必ず何か間違いが起きる、と考える癖をつけたほうがいいくらいだ。

一番の問題は、過去に輝かしい業績を上げた社長が長年そのポジションにとどまり、耳の痛い話をする取締役や経営幹部を排除してきた場合に起きる。本当のことを言ってくれる部下はもう社内に残っていない。皆、自分が首にしたか、嫌気がさして辞めてしまっている。今残っている経営幹部や部長が勇気を出して言おうとしても、社長の耳にはきわめて入りづらい構図ができあがっている。社長自身、嫌なことを言う部下を排除し続けて何年、という感じなので、「嫌なこと」「耳に痛いこと」を聞く我慢ができなくなっている。

過去成功した事業基盤が何で、それがどう変わったのか?

長年続いた企業は、過去に何度か大きな成功をしている。その成功した事業基盤がいったい何からできており、この5~10年どう変わってきたのか要因を整理するところから始める。社長自身がその成功の立役者だった場合も多いだろう。そうなると、余計に注意が必要だ。

過去の成功体験を冷静に吟味し、どういう有利な状況があったのか。そのうちどの部分が今も有効で、どの部分が大きく毀損したのかを見る。現任社長としてはかなり気が重い作業になる。これをやり抜かなければならない。財務部や経営企画部などに任せておくと、本当に重要な情報が薄められて伝えられる可能性がある。

ソニーの場合であれば、トランジスタラジオ、ウォークマン、テレビ、ビデオデッキ、ビデオカメラ等が次々にヒットして地位を築いた。ところが、デジタル化の進展により、こういった黒物家電商品の差別化がむずかしくなり、サムスン、LG等の韓国企業、あるいは台湾・中国企業がほぼ遜色ない商品を作れるようになった。

冷蔵庫、洗濯機、エアコン等の白物家電であれば、文化・生活スタイルに密着しているため、まだ差別化の可能性が残っているが、ソニーの得意とする分野では差別化がむずかしい。

ソニー全体で見れば、金融、エンターテイメント等で収益が上がり、創業以来の基幹事業の問題点をかなり覆い隠してきたが、逆にその分、アクションが致命的に遅れた点は否めない。

自分たちの今の強みは? 競合状況は?

次のステップとして、自社は今、何が強みなのか、競合状況がどう変わってきたのかを吟味する。

自社の過去の強みは、社長が理解していたこと、社内で信じられてきたこととは、多くの場合かなりズレがあると思っておいた方がいい。品質のよさが強みだと思っていたら、製品の品質ではなく、故障時の対応がどこよりも早いことだったりする。製品に圧倒的な自信を持っていたら、そこではなく、現場の営業力が強みだった、ということもある。

ましてや、状況が激変した今時点での強みは、もっとぶれている可能性がある。

顧客・ユーザー、販売現場等の生の声を聞かなければ本当のところはわからない。自己満足で思い込んでいる可能性が高いので、社長はぜひとも会社全体を動かして、生の声を直接聞く機会を作っていただきたい。ただ、生の声を聞く機会を作っても、注意しなければいくつかの問題が生じる。

1つめは、聞く相手を間違えてしまい、好意的な意見しか言わない顧客・ユーザーに聞くことだ。選定を部下に丸投げにすると、社長に怒られたくないばかりにそういう選定をしてしまう。事前にシナリオの下打合せさえしかねない。

2つめには、適切な相手だとしても、社長の前で緊張してしまい、本音を言えなくなってしまうことだ。「顧客・ユーザーなのだから、不満があったらそれを遠慮なく言えばいい」というのはこちらの勝手な理屈で、こちらが立派な会社であればあるほど、一顧客・ユーザーとしては萎縮してしまい、意見を正しく伝えられないことがある。

これに対しては、あくまで丁寧に、時間をきちんと取って、相手が話し出してくれるまで待つ姿勢が必要だ。また、こちらの立場をおもんばかり、本音を曲げて伝えているのではないかと疑い続ける。

3つめには、こちら側が強すぎる仮説を持ってその場に臨むことだ。そうなると、何を言われても、こちらの聞きたいようにしか聞こえてこない。また、相手から見ると、何か話しても都合のいいようにしか聞いてくれないことが一目瞭然なので、話す気が失せる。こういう場合、社長は、生の声を聞いたかのように理解してこの試みは終わってしまう。

業績が急降下した場合、以前の強みが本当に弱体化したのか、何が本当は起きているのか、思い込みを持たずに冷静に把握する必要がある。経営スタッフにとって、競合がどう攻めてきているのかは当然重要であるが、特に注意すべきは、従来の競合ではない新たな競合が低い価格帯から、あるいは他業種から攻め込んで来ていないか、ということだ。既存の競合企業も違う顧客・ユーザーセグメントに重点を置き、そこだけ押さえに来ていることもある。

また、「成功の復讐」にも気をつけなければならない。過去非常にうまくいった勝ちパターンに溺れ、状況が大きく違っていても、それから抜け出せないケースだ。そこまで成功していなければ、状況変化に応じて対応したかも知れないが、過去が偉大過ぎて、皆が思考停止している、ということもある。

一部の人が覚醒しても、「出る杭は打たれる」ということで、社長がよほど注意しなければすぐにかき消されてしまう。それどころか、「社長自身がせっせと出た杭を打ってつぶしてきた」ということも大いにありえる。

市場・顧客、技術、法規制それぞれの今後の動向は?

市場・顧客がどうなっていくか、技術はどうなっていくか、関連する法規制がどうなっていくかを期待感を込めずに、冷静に整理する必要がある。

社長が会社のビジョン、戦略を自分で描く会社はかなり少数で、多くは経営企画室や社長室にいったん丸投げしてそれから議論すると思う。だが、この時に本当に注意しなければ、社長の意向に合わせ、スタッフがいいように現実をゆがめて伝えてしまう。

社長が数字だけ見てあれこれ言うような会社は、なおさらその傾向が強くなる。そういう社長は「数字がすべて」と思っていることが多いが、数字はどう集めてくるかによっても大きく違うし、どう分析するか、どうメッセージを引き出すかで白を黒と言うことも十分できてしまう。

悪意はもちろんないが、サラリーマン的行動特性から、社長の望む現状分析、環境分析をしがちになる。結論ありきで調査・分析しても、従来の発想から抜け出ることができない。

社長は言葉だけで指示すると部下はそのとおりに行動してしまうので、一緒に顧客・ユーザーの声を聞くとか、一緒に最先端企業の経営者を呼んで話を聞くとか、一緒に海外出張して現地の状況を共有するとか、特別の工夫をする必要がある。

ビジョン、戦略をどう見直すのか?

会社の置かれている状況が激変したら、もちろんビジョンを新たに描き直す必要がある。3年後、5年後どちらの方向に向かうのか、そこで何を達成したいのか、社長は経営者としての明確な意思を打ち出す必要がある。

部下のスタッフに書かせたプランをただ議論するだけでは、社長自身が実感を持てず、いつまでもダメ出しをして延々と議論ばかり続けることになる。そういう方法で命を吹き込むことはできない。あくまで社長主導で、社長自身の言葉で1、2ページにまとめればそれで十分だ。

そのビジョンを実現するため、達成戦略の見直しが必要になる。ここまでは社長が自分で描かなければならない。ビジョンは夢物語ではなく、どうやって実現するかがはっきり見えて初めて、皆が共感できる意味のあるビジョンになる。したがって、達成戦略を考えつつ、社長は自分の言葉で新ビジョンを描いてみるといい。

それに対して達成戦略が描けない場合は、現在のビジョンを修正し、改めて考え直す。何度か修正を繰り返すと、ビジョンも達成戦略も、整合性があり、実現性のある全体像が生まれてくる。

着手から数週間以内、最大でも1~2ヵ月以内には、社長が本気でこうやろうと思い、寝ても覚めても考え続けることができるビジョンと達成戦略に仕上げていく必要がある。それ以上の時間をかけても鮮度が落ち、思いがだんだん発散していくだけなので、短期決戦が必要だと考えている。ただ、もちろんそれには高い情報感度と切れ味のよい分析力をもっていることが大前提となる。しかも社長自ら取り組まなければ、本当に実のある物にはならない。

私は常にこういったお手伝いをさせていただいている。社長の思いを4~5回のミーティングでお伺いし、社長の言葉で社長の思いをこめたビジョン・戦略を描く。事業リーダーとしてどんなに優れた社長でも、端的にビジョン・戦略をまとめ、表現できる方はかなり少数だからだ。これは企業の大小も国も問わない。

ビジョンと戦略の変更を組織内でどう浸透させるか?

社長が本気になって推進できるビジョンと戦略をいったん描いたら、経営幹部と共有し、若干の議論をする必要がある。この場合も延々と何週間、何ヵ月も議論するのではなく、せいぜい、1泊2日のビジョン合宿を2~3度おこなう程度で完成・終了させなければならない。

経営幹部と最初からもっと一緒にやりたいと考える社長が多いとは思うが、そうすると、結局社長の考えは深まらない。他人依存になってしまい、本気度の低い、借り物のビジョン・戦略になりかねない。日本の社長はこの部分がかなり弱い。

いわゆる「おみこし経営」と言われているが、それでは世界で戦えない。大企業でも中小企業でも、社長が一人で海外に出張し、先方のCEOとサシで議論して事業をまとめなければならない時代になった。英語が苦手な場合は通訳が必要だが、それ以外をスタッフに頼るのではなく、自分で全部判断し、交渉できる社長が今ほど必要な時はない。

社長がこういうリーダーシップを発揮するようになったら、経営幹部の一人ひとりも見よう見まねで同様にリーダーシップを発揮するようになっていく。それ自身が経営幹部育成上、大切なことだと考えている。

経営幹部と合意ができたら、次は、部長と共有し、意見を求め、その上で課長に落としていく。これらすべてを社長が主導する。事業本部制を引いている場合は、部長までは社長と事業本部長で進め、それ以降は事業本部長に任せてもいい。

経営改革はボトムアップではできない。断固とした決意を社長が持ち、反対を押し切って全社に展開していくことが会社を短期間で大きく変え、新たな命を吹き込むうえでどうしても必要なことになる。

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