→ Read English translation: The Second Key: Rapid Improvement of Existing Businesses
「経営改革を進めるには7つの鍵を同時に開けること」という提案をさせていただいた。今回は第2の鍵について、詳しくご説明したい。
「ビジョンと戦略の変更、全社員への浸透」を進めつつ、それに合わせて既存事業をゼロベースで見直す。過去の成功にとらわれず、最速で立て直すためには、思い切った経営改革方針を立て、それを詳細なアクションプランと必達目標に落とす必要がある。
長らく利益を上げており、自部門が会社の屋台骨を支えているという自負を持ち続けている既存事業の幹部は「自分のやり方が悪かった、事業環境の変化に対応しきれなかった」とは夢にも思わないことが多い。そのため、社長は自ら問題点をえぐり出し、断固とした態度でプッシュする必要がある。
過去に成功した経営幹部ほど、悪意はないが、業績を挽回できると内心信じている。「もう少し我慢すれば、必ずまた大きく貢献できる」と思っているため、経営改革に本気で取り組むことができない。取り組もうとしても部下の多くが子飼いであるため、何だかんだで反対する。どうしても保守的にならざるを得ない状況で、柔軟な発想をしづらい。
合意やコンセンサスを重んじる社長はそういった反対を押し切ることができず、経営改革がスタートする前に挫折してしまう。本当に深刻だと考えるならば、周囲にいい顔をし続けることなく、社長のリーダーシップを発揮する勇気が必要だ。激動の時代に合意やコンセンサスを重視し過ぎると命取りになる。
社長は、アクションプランと必達目標を決定した後、週次・月次の進捗確認会議を開催し、自ら厳しく進捗を管理する。経営改革が確実に進むかどうかは、社長が保守的な経営幹部に妥協せずにきっちり追い込めるかどうか、既存事業部の部課長の大半に自分の意思を直接伝えることができるかどうかによっている。何をやるべきかの迷いよりは、反対を押し切ってどこまで頑張れるかだ。
思い切った経営改革方針を立てる
利益を上げていた既存事業が、問題があまり目立たずに進行し、気づいた時には手の打ちようがないほど脆弱な体質になってしまうことがある。売上はそれほど落ちていない場合でも、顧客の信頼にひびが入り、利益の柱が崩れかけるとあっという間だ。
たとえば、利益率の高い商品ラインの売上が急激に縮小し、利益率が非常に低い商品ラインの売上がある程度成長している時、売上だけ見ていると危機感をあまり感じずに日々過ごしてしまう。利益は実態として減りつつあるとは言うものの、セグメント別の利益をきちんと把握できていなかったり、把握のタイミングが遅れてしまうことで、事業として非常にまずい状況になる。
こういう状況に陥った場合は、表面上でごまかそうとするのではなく、思い切った経営改革方針を立て、取り組むしかない。事業責任者はプライドもあり、何とかその場しのぎをして挽回しようとするが、そういうやり方はより悪い結果を引き起こす。既存事業を支えてきた事業構造が大きく変わっており、小手先の対応ではほとんど解決にならないからだ。
その場しのぎの問題点は、解決策として不十分であることだが、もう一つもっと深刻な問題として、手当をしたと安心するあまりに抜本的な対策を大きく遅らせてしまうことがある。早ければ何とかなったものの、手遅れになると挽回できなくなる。対策が不十分なために、事態がさらに悪化する。
「思い切った経営改革方針かどうか」のチェックは、実はそれほどむずかしいことではない。「大きな痛みを伴う経営改革かどうか」が一つの判断基準になる。痛みを伴わない大手術はほとんどないわけで、痛みを伴わないという時点でたぶん、「生ぬるい、その場しのぎの施策」と考えた方がよい。
こういうことが起きないよう、社長主導で、思い切った経営改革方針を立てることがどうしても必要になる。カンパニー制や事業本部制の場合でも、カンパニー長や事業本部長に任せっきりにするのではなく、社長自ら十分な大手術かどうか確認していかなければならない。カンパニー長や事業本部長は、社長にとって数年後輩だったり、同世代、あるいは数年先輩だったりする。職責上は自分が上でも、多かれ少なかれ遠慮していることが多い。そうすると、どうしても頼りがち、任せがちになるが、そこに問題の温床が生まれる。
「思い切った経営改革方針」かどうかのチェックがもう一つある。「思い切りすぎてやり過ぎではないか」という感覚を持てるかどうかだ。そのくらいに感じて初めてちょうどよい過激さになる。そうでないと、ほぼ間違いなく中途半端(=生ぬるい)な改善で終わってしまう。振り子は一度振り切るくらいに振らなければ、思ったところまで到達しない。
詳細なアクションプランを立案する
思い切った経営改革には「詳細なアクションプラン」が必要になる。それぞれの実行責任者が何をいつまでにすべきか明確になるレベルまでブレークダウンしたものだ。
例えば、「代理店依存から直販強化へ」という大方針を立てたならば、
・直販の営業担当者の増員、配置転換
・営業担当者の教育プログラムの整備と実施
・営業担当者向けの販促素材の整備
・代理店オーナー会への説明、説得
・代理店の選別、交渉、契約
・ウェブサイトの変更
などのアクションプランが必要で、それぞれ何をいつまでにすべきか、詳細まで設計する。
アクションプランの立案は、実行責任者を決め、本人に作成してもらう。他人が書いたものでは、本人のコミットメントがあまり期待できない。どのレベルまで詳細に書くか、経営改革推進事務局を社長直下におき、二つの観点からチェックする。
一つめは、新入社員が見て、自分が何をすべきか一応誤解なく理解できるレベルかどうかだ。そのくらい丁寧に書くつもりでちょうどよい。そうでないと、内容が大ざっぱ過ぎて適切かどうか事前に確認しづらく、また必達目標もアバウトなものになる。
二つめには、第三者から見て、ほぼ活動内容が理解でき、実行している状況が想像できるレベルかどうか。「実行責任者が自ら立案するのだから、わからなくてもいい」ということはまったくない。かならず全社的視点からの整合性確認と進捗確認が必要だからだ。アクションの種類によって、あるものはさらに細かく、あるものはもう少し大ぐくりでも十分となる。
経営改革推進事務局は経営改革を進めていく上で重要な機能を果たすが、そのリーダーには、全社で一番な優秀な部長級を任命し、社長のコミットメントを内外に示すことが必要だ。ここに二線級の人物を当てると、社長が本気でないことが一目瞭然となってしまう。
アクションプランそれぞれに必達目標を立てる
それぞれのアクションプランには、明確な必達目標を設定する。
たとえば、「直販の営業担当者を5名から15名に増員する」「営業担当者の教育プログラムを作成し、月次で開催する」などだ。営業担当者をより具体的にするには、「営業経験3年以上の営業担当者」というふうに縛りを入れる場合もある。
また、必達目標には成果への目標と、行動への目標とがある。「新規受注5件」は成果への目標であり明確だが、そこにいたるものとして、「見込み客100社をリストアップし、コンタクトする」「有望見込み客40社には上長とともに再訪する」「再訪後、50%以上の有望見込み客には提案書を提出する」などは、行動への目標となり、成果達成にいたる中間指標として設定する。
明確な必達目標を立てなければ、形だけやった振りをして、骨抜きになる。進捗確認会議でもそのアクションが完了したのかどうかの判断ができない。
実行キックオフミーティングを開催し、コミットメントを確認する
アクションプランと必達目標が作成され次第、社長、部門長、実行責任者が集まり、実行キックオフミーティングを開催する。
実行キックオフミーティングでは、社長からの期待を伝え、経営改革推進事務局から施策の全体像とアクションプラン・必達目標を共有後、部門長および各実行責任者が目標必達に対する決意を表明する。
ここで宣言した内容を「何があっても絶対に実行する、必達目標以上の結果を出す」と社長が本気で思い、経営幹部の大半が信じ、組織全体が一丸となって実行するような社風、行動規範をどこまで作り込めるかだ。これこそが社長の使命でもある。
当然、一朝一夕にできることではなく、社長就任後、最低数ヵ月以上かかる、ある種の「躾け」と言ってもよい。甘い会社ほど、実行キックオフミーティングの日だけ威勢がよいが、あっという間に尻すぼみになっていく。これは会社がどのくらい真剣に運営されているかの格好のテストだが、一番テストされるのは社長の本気度と一貫性、持続性だ。
尻すぼみになるか本気で実行するかは、90%あるいはそれ以上、社長自身の行動にかかっている。社長が「自分が決断し、実行し始めたことは何が何でも実行するリーダー」であれば、社員はそのように動く。「決めたことでも真剣にフォローしない社長であれば、社員はその場だけやる振りをする。社長がすぐふらふらするなら、部下が勝手にやり抜いてくれる、ということは決して起こりえない。「お神輿経営」は成り立たない。
週次の進捗確認会議で厳しく進捗管理する
実行キックオフミーティング後、週次で進捗会議を開催する。経営改革は、部課長の日常行動を全部変えなければ進まない。現状維持に終わってしまう。そのため、週次でアクションプランの何をどこまで進めたか、全員で確認し、相互にプレッシャーをかけていく必要がある。
「皆大人なのだから、もっと自主的に、それぞれ実行すればいいではないか。いちいち進捗確認会議など、社員を信じていないし、時間の無駄だ」という訳知り顔の評論をする経営幹部、部課長がかならず出てくるが、社長はそういう発言に惑わされてはいけない。本当に大人で自主的に進めることができるのであれば、そもそもこういう事態に陥っていない。週次進捗確認会議をやるにしても、ほんの30分程度でつつがなく終了する。ほとんど時間のムダなどないので、やらない理由にはまったくならない。
実際は、そういう簡単なものではなく、特に当初は部分的にしか進まないことがよく起きる。組織には慣性があり、やりかけた業務もあるため、そうは身軽に方向転換しづらいからだ。
したがって、1週目から進捗上どういう問題が起きて、どう対策をしたか、実行責任者全員で共有し、必要に応じた問題解決をしていくことがどうしても避けられない。社長と密接にコミュニケーションする経営改革推進事務局の地道な努力が必要で、スタンドプレイなどはない。
月次の進捗確認会議で厳しく進捗管理しつつ、組織的課題に手を打つ
週次に加え、月次の進捗確認会議も開催する。そこでは、前週からの進捗に加え、その月の当初からの進捗を確認し、問題解決をしていく。これでもか、これでもかという確認をしなければ、あっという間にアクションプランは骨抜きにされる。誰かがサボタージュをしたというわけでもないが、当初の合意が徐々に反故にされていく。「赤信号、皆で渡れば怖くない」だ。
週次に加え、月次でも確認すべき理由は、少し長い単位で見た時に、浮かび上がってくる組織的課題があるからだ。たとえば、代理店依存から直販強化に取り組んでいる場合のスキル強化上の課題、人材の課題、スピード感・顧客志向など組織風土的な課題などが明確になってくるので、適宜、新たなアクションプランを追加してボトルネックが起きないようにする。
社長が経営幹部を追い込めるかどうかが成否を決する
既存事業の抜本的改善を進めるには、過去の成功体験にあぐらをかいている経営幹部を社長がどこまで追い込めるかにかかっている。社長がどのように号令をかけても、そういった経営幹部は、「まあ社長はああ言っているけれど、これまでのやり方でいいんだよ。しばらくしたら何も言わなくなるさ」といったブレーキとなる発言を裏で繰り返し、経営改革を遅らせることが普通だと思っておいたほうがよい。悪意のこともあるし、会社を守ろうという善意から、そういったある種のサボタージュをすることもある。
社長は、組織や人の気持ちとはそういったものだということを理解して、経営幹部を一人ひとり説得し、フォローし、追い込めるかどうかだ。それが経営改革の成否を決する。
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