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部下に具体的な指示を出す ~「世界基準の上司」を目指して(第2回)~

部下に具体的な指示を出す  ~「世界基準の上司」を目指して(第2回)~

具体的な指示とは「課題解決の方針」

上司の価値は、部下にどのくらい具体的な指示を出せるかに大きく依存する。意志決定をすれば「後は部下がやるべきだ」「部下は顎で使えばいい」と考えているならそれは論外で、上司の役割の勘違い、誤解に他ならない。

部下に指示を出す時、できるだけ具体的な指示をする必要がある。あいまいな指示でこちらのニーズを理解してほしい、汲み取ってほしいというのは無茶な願いであり、上司の横暴、わがままだと考えている。そういうことはしていないと思っている上司でも、うっかりあいまいな指示をすることがある。

もう少しましなケースで、自分は具体的な指示をしているつもりでも、何が欲しいかを口頭で伝えるだけで、どう実現するかはあまり説明しないこともかなりあるのではないか。部下より情報量が多く、経験豊富で全体像を掴んでいる上司なら、実現方法まで踏み込んで指示をする方がよほど早く進む。

「課題解決の方針まで出すと部下を甘えさせることになる」ということで、わざと答えを言わない上司もいるようだ。ただ、私はこれは部下のためを思っているというよりは、意地悪さが半分、課題解決方針を上司自身があまり持っていないことが半分ではないかと疑っている。

部下に意地悪をする理由は全くないにもかかわらず、自分も昔そういう扱いを受けたとか、内心で部下の頭の良さを妬んで、ついそういうことをやってしまう。「最近のやつは恵まれている」「ちょっとたるんでいる」というほとんど根拠のない妬みから来る意地悪さだ。

課題解決方針を上司が持っていないのはかなり恥ずかしいことだと思うが、決して希ではないようだ。課題解決方針のイメージを自分が持っていない状況でも、部下に指示をし「部下に考えさせている」「それが部下にとって非常によいトレーニングだ」ということで、よしとしているのではないだろうか。

課題解決方針を上司が持っていないのに指示を出す問題

このやり方の問題点は、第一に、上司が考えることを放棄していることだ。自分で考えないので知見が全く深まらない。すぐ部下に丸投げする癖がつく。当然ながら部下には信頼も尊敬もされない。ずるい上司だというふうにも思われてしまう。

第二に、部下は少ない情報量の中で四苦八苦し、悩みつつ解決策を模索することになる。調べればわかる情報は本人がさっさと調べればよい。ところが、上司が握っている情報の中にもヒントが多く、それを共有してくれないので、あれこれ憶測を交えながら進めることになる。このやり方は、意味のないストレスがある上、部下が全体観を持ちにくく、細部も間違えやすい。

第三に、部下は、上司の意向を詮索し、反応を想定しつつ、「こう言ったらああ言われそうだし」「ああ言ったら、すぐ否定されそうだし」と悩み、下手に提案すると「全然考えていないな」「何もわかっていないな」などと揶揄されることを恐れて時間を浪費する。

経営企画関連の例を一つ挙げると、「当社が継続的に成長するため、どこの会社をM&Aターゲットとすべきか」という検討を指示する場合、「社長が何を目的としているのか」「どういう分野は考えられるが、どういう分野は対象外か」「相手の時価総額についてはどのくらいまでが対象か」「M&A後どのように価値を上げていくのか」などに対して上司としての方針を示さなければ、指示を受けた部下は困ってしまう。できる部下でも、課題がオープン過ぎて膨大な調査をし、網を拡げ、絞りこめず、時間ばかりかけてしまうことになる。

上司によっては勘違いしているかもしれないが、具体的な課題解決方針を出しても、部下を甘やかせることには決してならない。その方針に則って、より早く、よりよい結果を出せばよい。仕事は結果がなんぼだ。部下は、そのプロセスの中で自信をつけ、スキルアップし、上司が出した方針を超える案も出してくる。

そもそも、忙しい上司が箸の上げ下ろしまで指示をすることは到底できない。したがって、具体的な課題解決方針といっても、実際は高いレベルの方針を指示することがせいいっぱいであり、過剰に細かく指示をすることには決してならない。

少なくとも、大きな方針を上司が立て、その方針のもとで部下に具体的に進めてもらえば、マイクロマネジメントをすることなく、また放置することなく、上司の指示のもとで、部下は伸び伸びと仕事をすることができる。上司が課題解決の方針を出さないでいてもいい、という理由はあまりない。

具体的かどうかは部下のスキルと経験次第

「具体的な指示」の「具体的」のレベルがどのくらいかは、部下のスキルと経験による。

例えば企画に関して、「都市に住み、仕事を持つ20~30代女性が毎日使い続けるスマートフォンアプリの企画をしてほしい」という指示ですぐに動ける部下もいるが、そうでない場合は、

・ターゲットセグメントをより具体的に絞り込むとどうなるか
・ターゲットセグメントの特徴的なプロファイルはどうか
・彼女たちはスマートフォンをどのように使っているか
・1日24時間のうち、このスマートフォンアプリで新たにカバーできる部分はどこか
・どういう価値仮説が考えられるか
・画面遷移、ユーザー体験をどう設定するか
・ユーザーの利用率を上げるため、どういう工夫をすべきか
・アプリリリース前、リリース後のプロモーションをどう低予算で実現するか
・ユーザーがユーザーを呼び込んでくれる仕組みをどう作り込むか

などの検討課題にブレークダウンし、必要に応じてさらにコーチングする必要がある。

顧客インタビューを指示する場合

顧客インタビューのようなものでも、部下によっては「こういう顧客インタビューをしてきてくれ」だけで十分必要な情報を取り、使いやすい形にまとめて提出してくれることもあれば、もっときめ細かく指示をしないと何もできないことにもなる。

後者の場合は、

・顧客インタビューの対象をどう選ぶか
・顧客インタビューを何社設定するか
・顧客インタビューをどう設定するか
・顧客インタビューで何を確認するか
・顧客インタビューをどう進めるか
・顧客インタビューの結果をどうまとめるか
・顧客インタビューの後、どういうお礼をすべきか

などを詳細に説明することが必要で、それこそ、手取り足取りしないと意味のない顧客インタビューになったり、相手にとって失礼になったりする。上司は、部下のこれまでの経験、スキル、性格等を十分考えて、何の仕事を依頼するか、どこまで具体的に指示すべきか、きめ細かく考える必要がある。

「そこまでやっていられない」「他にも山積みの仕事がある」と思われた上司も多いのではないだろうか。私はそれは「言い訳」であり、「理解不足あるいは勘違い」でもあると思う。

「言い訳」という理由は、上司は組織リーダーとして、仕事のできる部下もできない部下も合わせて、それを前提として成果を出すことがミッションだからだ。

「理解不足あるいは勘違い」という理由は、成果を出すことに加えて部下を育成し組織を強化することまでが上司の仕事であるということがわかっていないからだ。

もちろん、会社の業績評価制度として、どういう部下を使ってどういう成果を出したかをきっちり把握し、正当に評価する必要がある。それが適切には実行されていないのに、結果責任ばかり問う形になっているため、上司は優秀な部下を獲得することばかりに関心を持ってしまうようだ。

「後出しじゃんけん」は不可

上司は、後から「本当はこうすべきだった」「私はわかっていた」「結果は明らかなのに、なぜそうやらなかったのか」などと詰問してはいけない。「後出しじゃんけん」をして自分の責任が免れたかのような気がするかもしれないが、これは全くの誤解だ。責任が免れるどころか、もっとみっともない。

上司に責任転嫁され、かつすべてお見通しだったかのような言い方をされて平気でいられる部下はいない。それまでどれほど上司らしく振る舞っていても、こういうことが一度あるとすべて台無しになる。しかも、一度部下の誰かに対して「後出しじゃんけん」をすると、憤慨して皆に話されてしまう、と思った方がいい。そのくらい悪影響がある。

「後出しじゃんけん」を言ってもいいことは全くないので、間違っても言わないよう、注意したい。部下だけだと気を許して、「だから言っただろう。最初からわかっていたんだ」などとつい言ってしまいがちだ。自分の上司に対してそういう言い方はまずしないと思うが、もしそうであれば、部下に対しても同様だ。

自分の指示のまずさを怒りでごまかさない

多くの上司は、まともな指示をしないでおいて、部下がうまく進められないと怒鳴りつける。部下が必要な情報を自分が握っていて、場合によっては握り潰していて、「何でそんなことも知らないんだ」と罵倒する。上司の立場だとすぐ取れる情報も部下の立場だとかなりむずかしいか、そもそもそういう情報の存在すら知らされていないのに、見つけていないことを叱りつける。

十分な指示をしていないだけならまだましな方で、多くの場合、間違った指示をして間違った方向に部下を誘導し、結果としてうまくいかなくなったことを部下のせいにしようとする上司も多いのではないだろうか。

それなのに、結果がうまくいかないと、部下を怒鳴りつける。「お前のせいで失敗した」「給料カットだ」くらい平気で言う。

部下が反論できない状況で部下を罵倒することは卑怯なことで、自分がそういう扱いを受けると大いに憤ったはずだが、いざ自分が上司の立場になると、前のことはかなり忘れて怒りをぶつけるようだ。こういう状況では一発で部下の信頼を失うし、部下の退職理由にもなる。「こんな上司の下でやってられるか!」ということだ。
 
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