日本勢の活躍
SXSWのトレードショウには、この数年日本のベンチャーが頑張って出展している。今年は大企業も合わせて15社が出展し、気を吐いた。
東大発のベンチャーAgICは普通のプリンターで紙の上にプリント基板が作成でき、来場者の関心を強く引いていた。科学技術の振興という意味で、セグウェイ等の発明で有名なディーン・カーメン主催の「FIRST」と同様に役立つ。
通常、基盤を作るだけでも数時間またはオーダーして数日間以上かかるものを2分程度で作成可能だ。プロトタイピングやエデュケーションでの活用がターゲットになる。また、ペン型の基板形成マーカーも紹介しており、手軽に基板を作ることができる(こちらを参照)。
SXSW2014トレードショウでは、日本のパワードスーツ(外骨格型)の搭乗型ロボットが大変な人気を呼んだ。沖縄高専のメンバーからなるスケルトニクスで、彼らはロボコンでの優勝をきっかけに搭乗型ロボットを開発した(こちらを参照)。
上図は著者作成
改めて、最初に説明した日米製造(IT関連)大企業の競争力変化の図を見ていただきたい。戦後数十年続いた驚異の高度成長期を経て、1980年代には日本企業が世界一になったかのような気分に浸っていた。
1. 日本は、米国の国家をあげた努力に負けた
日本が全盛期だったその頃、自動車、鉄鋼、半導体等の分野での日本との競争により大幅な貿易赤字を抱えた米国は様々な取り組みを開始した。そのうちの一つが1985年に出された「ヤング・レポート」である。なぜ日本が優れているのか、どうやって勝つべきか、官民一体となって競争力強化の研究をした。それを受け、米国は、国家戦略として科学技術・イノベーション政策の強化を打ち出した。
台湾・中国・インド・ベトナム等のアジアをはじめ、イスラエル、ロシア等からの優秀な人材の流入を増やし、大学でのコンピュータ学科を強化し、小学校からの科学技術振興を進め、規制緩和を進めた結果、有望なベンチャー企業が続々と生まれ、出資を受け、成長するイノベーション環境が形成された。
ベンチャー企業の上場、高額での売却が続いたことで、巨額の資金を手にした起業家が再度起業したり、エンジェル投資家となったりして次世代起業家を育てる、という好循環が始まった。
ベンチャー投資のリターンの高さが広く理解され、年金等機関投資家からのベンチャーキャピタルファンドへの投資額が急増した。それらがベンチャー企業に続々と投資され、上場あるいは成長したベンチャー企業の高額での売却というExitも一般化して、さらに投資額が増えるという好循環へとつながった。
シリコンバレーの人口構成を見ると、中国・インドなどアジア系が30%、ヒスパニック系が27%であり、IT系企業の中核人材の多くを海外からの人材が占めている。彼らの子息や新たな留学生など最優秀な人材がスタンフォード大学、MIT等の全米トップスクールに行き、グーグル、アップル、Facebook等の成長中の世界的企業に入社して数年後に起業したり、直接起業したりして、再生産を加速している。
1968年、フェアチャイルドセミコンダクター(1957年創業)を退職したロバート・ノイス、ゴードン・ムーア(ムーアの法則で知られる)、アンドルー・グローヴによりシリコンバレーにインテルが設立されて以降、オラクル、マイクロソフト、シスコ、クアルコム、アップル、グーグル、アマゾン、Facebook、Twitter等が続々と設立され、上場した。
アップル54兆円、グーグル39兆円、マイクロソフト34兆円、GE27兆円、オラクル19兆円等、時価総額10兆円以上の世界的企業となっている(参考)。このような企業が高額買収を重ね、好循環をさらに加速している(時価総額は2014年6月13日現在)。
一方、1990年代まで世界的ブランドであったパナソニック、ソニー、シャープ、キヤノン、NEC、富士通、沖電気等の電機系製造大企業の競争力はその後急落し、一部を除いて回復の目途が立っていない。
トヨタ、ホンダ等の自動車メーカー、コマツなどの建機メーカー、日立、東芝等の重電メーカーは好調であるが、時価総額はトヨタの20兆円、ソフトバンク9兆円、NTTドコモ7兆円以外、せいぜい数兆円規模で、米国企業の高業績・高時価総額とは比較できない水準に留まっている(参考)。
2.米国企業との距離はさらに拡大中
日本にも、もちろん、NTTドコモ、セブン&アイホールディングス、ファーストリテイリング等急成長を遂げている高収益企業もあるが、米国発の世界的企業(先ほどのリストに加え、IBM、GE、ウォルマート、P&G、コカコーラ、ボーイング等)とは、時価総額もグローバル展開も比べるべくもない。
日本企業が高度成長期に急成長できたのは、日本人のものづくり力の高さによっていたと考えられる。高品質・低価格の商品を大量生産し、大量に販売した。米国が巨大な消費国として君臨し、台湾、韓国、中国等が生産国として登場していなかった時代に、日本の製造大企業は大活躍した
ただ、その時代が終わり、付加価値の大半がIT、インターネット、プラットフォームに移った今、ほとんどの日本の製造大企業は新しい付加価値をほとんど獲得できないまま、業績を急速に悪化させていった。しかも、今のところ、対応の目途は立っていない。
SXSW2014では、ウェラブル、IoT、デジタルヘルス、コネクテッドカー・車の自動運転、ロボティクス、ビッグデータ、3Dプリンティング・メーカー革命、クラウドファンディング、セキュリティ・プライバシーの10分野で圧倒的なイノベーションと産業創出が同時並行的に始まったことが、はっきりと示された。
悪いことに数年先とかの話ではなく、今この瞬間に激しく動いている話だ。
しかも、「IT」×「データ」×「プラットフォーム」×「ネットワーク化されたハードウェア」が重要な鍵となっており、これら4要素すべて、日本企業が得意とするところではない。
箱庭の中でのハードウェアはもちろんお家芸であったが、コモディティー化が進み、ハードウェアだけでは魅力的なビジネスには、ほとんどなりえない。「ネットワーク化されたハードウェア」になるとさらに勝手が違ってくるため、どこまで参戦できるのかさえ、かなり微妙だ。
米国のベンチャーは「ネットワーク化されたハードウェア」の開発にどこまで日本企業を巻き込むか? シリコンバレーのベンチャーのエンジニアのかなり多くが中国、台湾、インド等のアジア諸国から来ており、英語が通じづらい日本企業をパートナーとして使いこなせない状況にもなってきている。
3. 日本の挽回策
以上を鑑みると、1980年代に米国政府が真摯な姿勢で取り組んだように、ゼロベースで競争力向上策を立案し、種々の反対を押し切って実行することが日本にとって待ったなしの状況になったと思われる。
日本の国際的競争力の低下とイノベーションの困難さを直視し、学校を改革し、規制緩和と政治・省庁改革を進め、企業経営の改革を進め、起業促進をすることが必要だ。しかも、これら抜本的な施策を同時並行で、しかも少なくとも10年以上の長期にわたって強力に推進しなければ、日本企業の競争力挽回はかなりむずかしい。
日本には、センサー技術や、素材技術、得意芸の組立ロボット、また最近上場し、米ハーバード大学教授らも注目したサイバーダイン等のロボット等、先進技術、先進的事業がいくつもあるが、それらが急成長して時価総額数百億円、数千億円のベンチャーに育つことはほとんどない。
先進技術であればあるほど、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資を得ることが困難になる。あっても数千万円~数億円に留まる。産業革新機構なども設置されたが、米国のVCのように初期段階から数億円~数十億円を出資することはまずない。出資先企業を精査する期間も非常に長く、一気にアクセルを踏むことができない。NEDOは補助金・助成金であり、事業の可能性を事業家として厳しく判断することがそもそもできにくい。
VC側から見たら無理もない。事業センスのある技術系社長は少数であるし、後に続く投資も中々期待できないし、大企業がベンチャーの製品をどんどん買うとか、ベンチャーそのものを高い時価総額で買収するとかもほとんど期待できないし、という状況だ。責任を全うしようという投資責任者としては、ハイテクベンチャーへの出資に二の足を踏まざるを得ない。
東大発ベンチャーSCHAFTが日本の10数社のVCから出資を受けることができず、最終的にグーグルに100%買収されたように、米国企業、米国VCが日本の高い技術に目をつけ根こそぎ買収してしまうことが起こりかねない。その前に環境を整備し、価値ある支援をし、成功事例を作り、日本の資本でコントロールした上で事業化を加速していかなければならない。
現在第4次ベンチャーブームと言われ、一般的なベンチャー自体は増えている。学生の起業も20~30代の起業も周囲を見渡して決して珍しいものではない。
ところが、こういったベンチャーにおいては、米国で注目されているようないわゆる先進技術、先進的事業をベースにしたものは少ない。
高度な技術力を競争優位性とするハイテクベンチャーの起業と新事業創造を大幅に促進するためには、日本の強みである製造大企業・中堅企業が鍵になる。製造大企業・中堅企業には膨大な技術シーズと人材が埋もれており、活用次第で大変な力を発揮できると理解している。
A)大企業・中堅企業内で本格的に多数の新事業を立ち上げる
新事業には、既存事業のデジタル化・ネットワーク化・プラットフォーム化等のイノベーションによるものと新規のものとがあり、有望な事業が少なからず考えられるはずだ。ただし、新事業を立ち上げるには既存事業とは切り離し、社長直下に新事業創出部門を置くなどして余計な雑音をなくすことが必要になる。
さらに、精神論では成功確率は上がらないので、新事業創出支援がきちんとできるプロ集団を設置する。具体的には、新事業立ち上げの素養があり、問題把握・解決力の高いチームメンバーを採用・育成することで、企画・事業計画作成・サービス開発・事業提携等、新事業の効果的な立ち上げを支援する。既存の管理部門等の管理対象のままだと新事業としてのスピードを出しづらいので、そこからはずして最速で動けるようにする。
新事業創出部門内では多数のプロジェクトを並行して走らせ、ベストプラクティス、失敗事例共有や開発競争により、高いモチベーションを実現する。管理・報告ではなく、自律と競争で律する。それ以外も、外部人材との交流等、少しでもシリコンバレーに近い環境を作る。事業によっては100%子会社、80%子会社として設立することで外部からの投資を誘う。
新事業の事業リーダーは、事業への熱意と推進力で選ぶ必要がある。事業や顧客に関して何時間でも話し続けられるほど熱意があり、問題解決力がある人材を社内から選抜する。今は埋もれていて見えづらくても、会社としての長期的コミットメントを示せば必ず出てくる。
新事業立ち上げは、従来とは異なるリーンスタートアップアプローチが必要で、素早い仮説構築・修正・検証型の商品開発となる(参考)。これにより、従来に比べて立ち上げのスピードは何倍も速く、費用も数分の一以下で、多数のトライ・アンド・エラーを行いつつ、日々加速しながら進めていくことになる。
また、日本の大企業へのイノベーション支援に深くコミットしたシリコンバレーのVC(例:Fenox Venture Capital)等の活用による、米国等の先進的ベンチャーへの出資、協業、米国でのJV設立等も新事業立ち上げを加速する上で不可欠と考えられる。
インターネット時代における新事業の立ち上げには、ほぼどういった分野でもスマートフォンアプリ、サーバー、ネットワークインフラ、大規模データベース等の技術が不可欠になってきたが、社内では経験不足のことが多い。システム開発・構築力が勝負を決するので、外注に頼りすぎず、採用・育成を加速する。
B)大企業・中堅企業の既存事業でも、コア事業以外は極力切り出して自力で勝負させる
経営責任を持つことで初めて経営者が育つ。持たせなければまず育たない。このよような考えで、ただ放り出すのではなく、成功確率を高めるため、本格的な事業支援チームを本社側に作って切り出した事業の黒字化を支援することが必要になる。
これも、従来のような子会社管理部等ではなく、事業を成功させ、かつ助言に秀でた人材を少数採用・確保・育成して、役立つ支援を提供する。社員を適宜アサインすれば支援できるはず。それこそが仕事だ、という考えで運用している会社が多いと思われるが、そういうレベルでは役に立たないことが多いし、場合によって有害である。
経営支援は「管理」ではない。詳細な数字を報告させたり、資料を要求したりすることではない。顧客候補を紹介し、事業開発を加速し、人材採用や組織構築を支援することが必要にも関わらず勘違いされていることが多いので、経営者の理解と本気度が鍵になる。
切り出した事業の経営者は、3~7年前後のローテーションで他の子会社や本社の経営幹部として活躍できる。会社によっては「子会社行きが片道切符」といった硬直した人事制度もあるので、そこにも聖域なくメスを入れる必要がある。
C)大企業・中堅企業の中で活躍の場を見いだせない人材は、起業・転職を検討する
日本の製造大企業・中堅企業には、ポテンシャルとしては優秀な技術者が少なくとも数十万人以上いると考えられる。技術者以外、製造業以外も考えれば数百万人どころではない。
米国やアジア諸国であればとっくに起業し大成功できる人材も、多くが日々不満をもらしつつ、親方日の丸にしがみついているのではないか。
これはあまりにも無駄であるしもったいないので、これらの人材に踏み出すための具体的方法論と精神的支援を提供し、思い切って起業・転職していただくよう後押しをする必要がある。本人のためにも家族のためにも、有効活用していない会社のためにも、日本のためにも、その方が望ましいと私は考えている(出発点として、例えば、「セカンドキャリアのための戦闘力アップ講座」を開催した。
技術者・研究者対象には経産省等がすでにその動きを始めているが、インキュベーション施設、本格的な経営支援、共同創業者とのマッチング機会提供等の必要がある(出発点として例えば、「メーカー技術者・研究者の起業と自立を支援するセミナー」で講演した(講演資料http://www.slideshare.net/yujiakaba/ss-33843834 )。
また、製造大企業・中堅企業だけではなく、大学発ベンチャーも、日本のイノベーション加速には根本的に強化する必要があると考えている。2001年、経産省がリーダーシップを取って大学発ベンチャー1000社計画が発表され、2012年までに2000社以上が設立された。
ただし、2000社の大半は決して順調とは言えない状況と思われる。IPOした企業が24社以上あるとは言え、シスコ(1984年創業、時価総額13兆円)、グーグル(1998年創業、時価総額39兆円)、Facebook(2004年創業、時価総額16兆円)のように大学発ベンチャーとして急成長し、時価総額10兆円以上になった会社はない。このへんの事情に関しては、早稲田大学名誉教授である、松田修一先生のこちらの記事に詳しい。
大学の研究の実態と人材のあり方、および日本の起業環境の厳しさを考え、私としては次のように段階を踏んで考えている(参考)。時間はかかるが、これならある程度現実的だ。
A)大学周辺ベンチャーの起業を促す
大学の研究を基にベンチャーを起業し急成長させることは、難易度が高い。大学の研究の大半は決して応用や事業化を念頭に入れたものではないからだ。もちろん例外的に事業としてのポテンシャルが高いものもあるが、数億~数十億円の開発資金を獲得することがほぼ不可能な日本では、研究の筋がよくても事業化までたどり着かない。研究者自身も事業化にそこまで関心を持たないことが多い(これは日本に限ったことではないが)。
むしろ、大学のキャンパスで出会った学生同士が、研究とは特に関係なく、在学中あるいは卒業後に起業することで大学周辺に多数のベンチャーが生まれ、そのうちのいくつかが急成長していくようになる方が現実的だ(Facebookがまさにこのモデル)。上場や高額での売却で多額の現金を手にすると、再び起業したり、より難易度の高い技術ベンチャーを支援したり、あるいは母校発のベンチャーに対してエンジェル投資をしたりする。
大学発ベンチャーを促進するためにインキュベーション施設を提供する大学が増えているが、施設が貧弱だったり使い勝手が必ずしもよくなかったり(利用時間、場所、支援内容等)、事業を成功させた先輩のわくわくする話を聞く機会があまりなかったりで、改善余地が大きい。
事業の成功確率を上げるため、インキュベーション施設には、計画の立て方、顧客・ユーザーインタビューのしかた、事業開発のしかた等、学生の不慣れな部分を支援する、高い問題解決力を持つプロのインキュベーションマネジャーが必要である。ただ、必要性への認識も、また確保のための高い報酬も十分ではないため、この部分の改善から始める必要がある。
B)より本格的な「大学発ベンチャー」の起業を促す
大学周辺ベンチャーが続々生まれ、成功事例が出始めた次の段階としては、大学の研究に基づくベンチャーの起業が可能になってくる。この場合も、教授・准教授の起業というよりは、助教や博士課程、ポスドクの学生の方が現実的だ。
ウェアラブル、IoT、デジタルヘルス、ロボティクス、コネクテッドカー・自動運転車、ビッグデータ、3Dプリンティング・メーカーズ革命、セキュリティ等の分野での博士課程、修士課程での研究を基に、研究者と共同創業者候補や社長候補との出会いの機会を提供する。
シリコンバレーはスタンフォード大学を中心にできあがったが、広大なキャンパスでも、あるいは周辺地域でも、MBAの学生と工学系の学生が出会う場や、成功して数十~数百億円の資産を得た起業家、ベンチャーキャピタリスト、エンジェル投資家と、起業志望者、起業したベンチャー社長が出会う場が非常に多い。
出会いの場だけではなく、大企業との事業提携、特許取得、海外の展示会への出展、英語でのプレスリリースを含むマーケティング等の支援が必要となる。
C)日本人の起業意欲を高めつつ、起業家精神の強い留学生をターゲットにする
起業環境を整備し、適切な広報をすることで、外国での知名度が上がり、起業を念頭に入れた優秀な留学生がかなり増える。米国でスタンフォード大学、MIT、ハーバード大学、UCバークレー、テキサス大学オースティン校等が果たした留学生獲得と留学生による大学発ベンチャー創出上の役割を東大、東工大、京都大学、東北大学、九州大学、慶応義塾大学、早稲田大学等が果たせないという理由はない。
ただ、促進のためには、留学生向けの住環境整備、英語による教育・支援、VC・事業会社との出会いパーティー、留学生向けビジネスプランコンテスト、起業コンテスト等が欠かせない。
D)上記の大前提であり出発点となる条件
上記の段階を踏むには、大学が地域の発展にコミットし、地域の有力者と本気で握り、最低でも5~7年以上、起業環境の整備を行う必要がある。「大学が長期にわたりコミットする」ということが現在の文科省の管轄下でできるのか、また、イノベーションとベンチャーの重要性を理解し、正しい方向に長期間にわたって強力なリーダーシップを発揮できる学長、理事長がいるのか、が鍵であるが、何としても実現の方向に持って行きたい。
4. 米国の起業・イノベーション環境
ここで、米国での起業・イノベーション環境について改めて整理しておこう。
米国では、有望な分野での有望なベンチャー企業には、数億円、数十億円から、多いものでは数百億円が投資される。圧倒的な資金投入で最高のチームが形成され、最高の環境が提供され、その分野で圧勝することが期待される。
有力なVCやグーグル、アップル、Facebook等が投資したベンチャーは、好循環になりさらに事業が急成長する。結果としてさらに巨額の資金調達をして、勝ちゲームをさらに勝ちゲームにし、成功を積み上げていく。
そのような状況なので、世界中から我こそはと思う起業家が殺到する。特に多いのは、当初、台湾、中国、インドからで、さらにベトナム等のアジア諸国、イスラエル、ロシア、東欧等も続く。
彼らを吸引する要素の一つがY Combinator、500 Startupsなどのインキュベータだ。インキュベータは、毎年2回程度、厳しい選抜試験を経た数十社のベンチャー企業に対し、数百万円の資金、3ヵ月程度のコーチングと相互研鑽の場を提供する。卒業式に当たるデモデイには数十~数百社のVCが集まって出資を検討するため、プログラムに参加できたベンチャー企業にとっては、かなりの確率で事業立ち上げが可能になる。
事業を急成長させて売却し、次の起業にチャレンジするシリアルアントレプレナーも少なからずいる。起業からは引退して、エンジェル投資家になる人も多い。事業を成功させた経験があるため、創業初期のベンチャー企業への助言も日本の似たようなケースよりはるかに効果的なものになりやすい。
ここ数年は、Kickstarter等のクラウドファンディングにより、数千万円~数億円を集めることも可能になった。さらに、かなり使いやすい安価な3Dプリンティングサービスが普及し始めているため、イノベーションが起きにくかったハードウェア系のところでもどんどん起きるようになった。
こういった流れを受けて、スタンフォード大学、MIT、ハーバード大学等トップスクールの学生の情報科学専攻者が急増している。2006年から2013年にかけてスタンフォード大学は200名から700名へ、MITは800名弱から1150名へ、ハーバード大学は75名から300名に増えた。
米国のトップスクールの学生はかなりの割合で急成長ベンチャーに就職したり、起業するため、優秀な学生、内外からの起業家、エンジェル投資家、インキュベーター、VC、事業会社、機関投資家等からなるイノベーション環境が好循環を加速している。
それに加え、最近のSXSWはデジタルの世界でもっとも賢く先見性のある人々が将来について語り、意見交換をする場所として機能している。CES等の展示会とは異なり、ディスカッションそのものに大きな価値がある。
その意味で、産業がどういう方向に発展していくか、どういうマイルストーンがあるか、社会的にも法律的にもどういう課題を解決していかなければならないのか、などに関して、重要な羅針盤になっている。
つまり、今後どちらの方向にベンチャーが生まれ成長するのか、どちらの分野に投資すべきなのか、明確に指し示す場所になっている。
今後の産業発展、技術発展、社会発展を理解する上で、日本人がもっと参加すべきであるし、スピーカー側にもなるべき場所である。日本からのスピーカーとしての登壇やベンチャーコンテストへの参加は、ほぼないに等しい。
余談であるが、シスコでInternet of Thingsを強力に推進してきた役員が5月に退職した。IoTがらみのベンチャーに転職するのではというもっぱらのうわさだ。米国では、このように超一流企業でイノベーション推進の中心であるシスコからでも、キーパーソンが退職し、ベンチャーに転職することが頻繁に起きる(参考)。
最後に、日本の挽回策をより包括的に整理するとこのようになる(これでもすべてではない。反論も当然あるとは思う)。
道路一本作ることをやめると十分お釣りが来るほどで、決して費用がかかる話ではない。ただ、起業率を上げるべきだ、イノベーションをもっと起こすべきだと言っていても、具体的な話になると、なぜベンチャーを支援するのか、なぜ大企業のイノベーションを支援するのか、なぜ外国人の起業を支援するのか、といった反対意見が必ず出てくる。
他国では当然のように行われているベンチャー・イノベーションへの資源の重点配分、重点施策が非常に通りにくい。政治家も官僚も先進事例はかなりよく勉強していて結構わかっているのに、押し通すことができないのが本当にもったいない。日本人は自分の頭で考え、発言し、行動できない、というまさにその問題だ(参考)。
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