→ Read English translation: The Third Key: Developing Multiple New Businesses
「経営改革を進めるには7つの鍵を同時に開けること」という提案をさせていただいた。今回は「経営改革を進める第3の鍵: 複数の新規事業立ち上げ-リーンスタートアップ」について、くわしくご説明したい。
リーンスタートアップそのものに関しては、「素早い仮説構築・検証・修正による商品開発 実践的リーンスタートアップ」という記事で詳しく述べさせていただいたのでそれを踏まえ、「経営改革の一部として複数の新規事業立ち上げをリーンスタートアップで実施する際の注意点」に関して、重点的にお話したい。
複数の新規事業をリーンスタートアップで立ち上げる
既存事業の立て直しを全力で進めるだけでは、よほどのことがないかぎり、延命が進むだけで新たな収益源が見えて来ない。社員も会社の将来に夢を持てなくなる。したがって、新しい時代に向かって新規事業を立ち上げていくことがどうしても必要だ。
ところが、従来の取り組みでは、新規事業立ち上げに時間とコストがかかり過ぎるので、新しいアプローチが必要となった。それが「複数の新規事業をリーンスタートアップで立ち上げる」というやり方だ。
社内の優先順位・緊急度の高い2~4つのプロジェクトを並行して進め、6ヵ月後には次のラウンドのプロジェクトをさらに立ち上げていく。基本の単位を6ヵ月とし、着手から6ヵ月後には事業化提案をして「事業として本格的に進めていくか」「事業化には至らないということでその時点でプロジェクト中止・解散とするか」のどちらかとなる。
事業化提案までの6ヵ月は、大きく2つのステップに分けて取り組む。最初のステップ(1.5~2ヵ月)は、価値仮説・成長仮説を作り上げ、MVP(実証ミニプロダクト)の設計をする。顧客・ユーザーのニーズが非常に強く、市場規模が大きくかつ成長し、競合優位性を構築できる事業案が必要だ。事業の筋はここでかなり決まってくる。
仮説ができたら、次のステップ(4~4.5ヵ月)では、MVPを開発し、実際に顧客・ユーザーで試行する。結果が思うように出なかったら即座にピボットし、MVPを修正。改めて顧客・ユーザーで試行することを数度、素早く繰り返すことで、MVPによる事業性の検証を進める。
ここまで、プロジェクトメンバーはリーダーを中心とする数名規模で進め、事業化提案が通れば、そこから人員も資金も一気に投入して加速していく。ハードウェアかソフトウェアによらず、どうやったら素早く仮説を検証できるかがこのアプローチの鍵になる。このスピード感で、かつ2~4プロジェクトを同時並行的に進めていく。
価値仮説を構築する難しさと注意
リーンスタートアップの出発点として重要なのが、価値仮説の構築だ。強調するため、私は「顧客・ユーザーが泣いて喜ぶ価値仮説」と呼んでいる。「ちょっといい」程度では誰も使ってくれない。
困っている問題には皆何かの方法をすでに取っていたり、工夫していたりする。それを切り替えて使ってくれるほどの素晴らしいものでなければ、B2CでもB2Bでも、誰にも見向きもされない。しかも、それが何ヵ月以上あるいは場合によっては1年以上も人材・資金を投入してから露呈する。企画・開発側の一人相撲の結果だ。
こういう状況はIT系にかぎったことではない。どういった産業、分野でも、企業数が増え、競争が激しいため、本当に素晴らしいものでなければ存在価値を認められない時代になった。競争そのものがグローバルな戦いになり、激化する一方だ。
価値仮説を構築するためには、顧客・ユーザーが誰で、特に誰のニーズに応えるのか、顧客・ユーザー視点で徹底的に考え抜く必要がある。ただ考えるだけでは不足で、普段からアンテナを高く掲げ、情報感度も高くしておく。理屈だけでは間違えるので、顧客・ユーザーに十分密着していなければならない。素晴らしい商品を思いついて興奮し、顧客・ユーザーにアクセスしづらいために彼らからの反応を軽視してしまう、ということがあるので要注意だ。
従来のように、技術ありきとか、製品ありきではなく、あくまで顧客・ユーザー重視が必要なので、社長自ら徹底的に推進し、浸透させる必要がある。
ただ問題は、「社長が一番顧客・ユーザー重視でない」という場合だ。もちろん、本人はそんなことは夢にも思っていない。だからこそ、危険だし、部下からは丸見えなので、信頼を失うもとにもなる。過去の成功体験から、自分が顧客・ユーザーのことを一番分かっている、と思うならば、たぶん、その時点でかなりまずい。
社長が現場でバリバリやっていた時代と今とでは、たとえそれが数年でも大きく事業環境が変わっているし、多くの場合は、10年以上たっている。「十中八九、自分の感覚がずれている」と思うことが必要だ。
MVP開発への割り切り
次に重要な点が、MVP開発への割り切りだ。エンジニアはどうしても作り込み過ぎてしまう。エンジニアの判断に任せておくと、高い確率で機能過剰になると思っておいたほうがよい。
これはエンジニアの頭が固いとか趣旨を理解しないとかいった問題ではなく、エンジニアの価値観や行動原則、会社の体質によるものだ。それらをいったん横に置いてスピード重視の開発をするには、社長の先導が不可欠となる。
従来、絶対とされてきた価値観に反することに近いので、社長が「それでいいんだ。従来のやり方ではだめなんだ」と繰り返し言い、かつ、目標設定、人事評価、全社へのメッセージも含めて言行一致で進めなければ、メッセージが徹底されない。エンジニアもほかの社員も、社長が本気でそうやろうとしているのか、一時的な気まぐれ、思いつきで都合よく言っているのか、注視している。
新規事業を人任せにして来た社長は、特に注意する必要がある。そうでなくても、経営改革に際して「なぜうちはリーンスタートアップができないんだ」と単に叱責するようでは、部下の信頼はまったく得られないし、新規事業立ち上げはあまり進まないと思ったほうがよい。その時点で、リーダーシップの点で失格だし、経営改革を進めるむずかしさとそこで果たすべき自分の役割をわかっていない、ということになる。
開発期間もコストも従来の数分の一以下に
リーンスタートアップの考え方はIT系のサービスだけではなく、あらゆる新規事業立ち上げに有効だ。「顧客・ユーザーが泣いて喜ぶ価値仮説」を構築し、それを実証するMVPの開発を通じた「素早い仮説構築・検証・修正による商品開発」だからだ。
従来型のシーズ指向の検討、事業開発とは根本的にスタンスが異なる。開発者がどんなによいと思っても、顧客・ユーザーに響かなければ何にもならない、思い込みに過ぎない、という単純明快な発想だ。
といって、雑なやり方、というわけではまったくない。仮説構築・検証・修正による商品開発なので、正しく進めれば急速に仕上がっていく。しかも、数ヵ月、数年先に顧客・ユーザーに初めて確認するのではなく、開発当初から確認し続けるので、開発期間もコストも従来の数分の一以下になる。
ごく一部のカリスマ経営者が、「顧客・ユーザーの意見など聞かない。彼らは自分たちが何を欲しいかわかっていない」と言っているが、これを鵜呑みにしてはだめだ。これはまれに見る先見性とセンスのよさがあり、信じられないほどの努力があって実現していることだ。通常の会社でそういうことをやると、単に一人よがりな商品ができるだけだと思ったほうがよい。
チーム間の競争、切磋琢磨
複数の新規事業立ち上げにより、成功確率が上がるし、チーム間の健全な競争、切磋琢磨が進む。プロジェクトが一つだけだと、どうしてものんびり進めることになる。会社の命運をかけたプロジェクトの場合、余計に特権階級のような、独特の雰囲気が生まれる。
それを打ち壊すのが、複数の新規事業立ち上げ競争だ。競争すれば、プロジェクトリーダーもメンバーも、ほかのチームに負けまいと、必死になって走り続ける。
ノウハウもものすごい勢いで蓄積されていく。各チーム、アドレナリンが出て、アイデアが続々と湧く状況になる。検討している事業内容はもちろん異なるが、顧客・ユーザーインタビューや仮説構築の仕方、MVP開発、あるいはチーム内のコミュニケーションなど、共有できるノウハウが溜まっていく。
こういった競争とノウハウ共有を生み出すためには、全国各地のバラバラの事業所で進めるよりは、できるだけ同じ場所、同じフロアで隣が丸見えの状況で新規事業立ち上げを進めるほうがよい。事業化提案までの6ヵ月であれば、集まることも十分可能になる。生産性向上、成功確率向上から考えると、宿泊費用、出張手当等などは安いものだ。
これからの新規事業立ち上げは、確定論的ではなく、確率論的に進める
複数の新規事業立ち上げとリーンスタートアップにより、開発期間もコストも従来の数分の一以下に抑えつつ、可能性のある分野を並行してチャレンジすることができる。以前のように、少数のプロジェクトに大きな資源を投入し、「何が何でも成功させる」「成功するまでやる」というやり方も時には必要であるが、そういった確定論的なものより、もう少し確率論的に進めるほうがよい。
つまり、いくつか全力疾走させておいて、生き残るもの、筋がいいものだけ、さらに資源を投入して大きく育てるという考え方だ。順番に試していくと時間が膨大にかかるので、スピーディーな時代においては、安く、早く、並行して進め、生き残ったものをさらに育てていく。
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