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部下と協力関係を築く ~「世界基準の上司」を目指して(第1回)~

部下と協力関係を築く  ~「世界基準の上司」を目指して(第1回)~

プレーヤーからマネージャーへの転換

初めて部下を持った時、かっこをつけずに早く慣れることが何よりも重要である。優れた上司は、どの段階かでプレーヤーからマネージャーへの転換を果たしている。

優秀なプレーヤーは、個人として成果を上げる。他の人には思いもよらない方法で顧客を獲得したり、売上上位を続けたりする。ところがプレーヤーとして優秀だった人が、マネージャーになって成績を落とすことがある。プレーヤーとしての強みが顧客に密着し、最前線の情報を取ることで成り立っていたような場合、マネージャーになってそれが発揮できなくなると一気に戦闘力が落ちてしまう。そこを変えていかなければならない。

・従来ほど現場に行く回数は減ったが、部下を通じたり、トップとの会食の場などを通じたりして、状況を遜色なく把握する
・顧客の課題を今まで以上に深掘りし、時間は少なくても知見を深めていく
・自分の強みを現場への密着から、部下を通じた顧客へのサポート強化など、上司としての仕事に切り替えていく

マネージャーとして部下をうまく活かすことができれば、個人でやる以上に大きな成果を上げられる。一人の時間には限りがあるが、部下が一人でもいれば作業の一部を負担してもらえるし、数人いれば、同時並行的に展開することもできる。入ってくる情報量も格段に大きくなっていく。

誰もが通る道ではあるが、全体をどう把握してどう動かしていくのか、どういう気配りをするのか、どういうコミュニケーション手段を取るべきか、若干の慣れが必要だ。アジャストできないまま上司の立場になると、本人も部下もかなり苦労することになる。部下をうまく動かすことができず、部門としての費用がかさむ割に結果が伴わないからだ。

個人としては優秀であっても、部下を動かすことが負担となれば、本人の気力も戦闘力も落ちていく。

マネージャーとして必要な資質

では、どうすべきか。実際には、個人としてそこまで優秀でなくても、マネージャーとして抜群の才能を示す人もいる。プレーヤーとして優秀であったかどうかは別にして、マネージャーとして必要な資質は、

・部門の成果を最大化するために必要なアクションを立案、整理する
・誰が何をするか全体像を描き、責任・権限を明確にする
・全体を動かし、週次で進捗管理をする
・部下がやる気を持って取り組めるよう、個々人の状況に注意を払う
・他部署の協力を得て、仕事をしやすくする
・会社上層部への報告、調整をすることで、サポートを得やすくする
・外部をうまく活用する

などである。これらは優秀なプレーヤーの資質があれば十分にできるはずだと考えている。

部門の成果を最大化するために必要なアクションを立案、整理するには、1プレーヤーとしての視点ではなく、部門長として全体を見渡す必要がある。これまではその部分は上司の仕事であり、「自分には関係ない」「自分はひたすら売上を上げることで貢献する」と思っていたかも知れないが、部下が何人かできた段階で、まずはチームとして何ができるのか、その中で自分はどう貢献できるのか、他のメンバーにはどういう貢献をしてもらうのか、考え続ける習慣を身につける必要がある。

誰が何をするかの全体像を描き、責任・権限を明確にするには、部下一人ひとりの長所、成長課題を考え、これまでの経験、仕事に対する価値観、取り組み姿勢に基づき、組み合わせを考えていく。一度で全体最適解が生まれるわけではないので、いったん描いてみて、ギャップがあったら一部を修正して、数回の試行錯誤の後、これなら、という全体像を描く。

全体を動かし、週次で進捗管理をするには、今までは自分一人の行動だけ考えればよく、ほとんど無意識のうちにも最善の行動パターンに沿って動いていたかもしれないが、そこを根本的に見直す必要がある。自分よりスキルが低い部下一人ひとりに目標を与え、具体的な行動内容を決め、進捗を管理するように変えていかなければならない。

最初は相当に面倒だと思うはずだが、自分の方が圧倒的にスキルが上なので、スキル差に気を配ることができさえすれば、それほどむずかしいことではない。ただ、頭を使う部分が少し違うという気はするだろう。

部下がやる気を持って取り組めるよう、個々人の状況に注意を払うには、これまで自分と上司と、営業であれば顧客の動向にのみ注意を払っていたところから、部下一人ひとりの気持ちと行動に関心を持ち、観察し、やる気を阻害している要因がないか、どうすればもっとやる気が出るか、確認し続ける、ということになる。それ自身は、新商品開発や顧客開拓等に比べよほどやさしいこととも言える。

他部署の協力を得て、仕事をしやすくするには、他部署のそれぞれの目標を理解し、何をどう達成したいと考えているのか、相手の立場で考える習慣をつけることが必要だ。一方的にこちらからの視点でいくら考えても、壁にぶち当たるし、相手の気持ちを逆なですることになって前に進まない。上長を巻き込んで力づくで動かそうとしたりすると、摩擦ばかり大きくなり、ドツボにはまってしまう。

会社上層部への報告、調整をすることで、サポートを得やすくするには、会社上層部が自部門に対して何を期待しているのか、どのような貢献を望んでいるのか、どういう頻度での報告をよしとしているのかを観察し、場合によっては遠慮なく質問して確認することが先決だ。質問しても答えてもらえない時もあるし、質問すること自体、ノイズを生むこともあり得るので、リスクの少ない他の上司のアドバイスを求めたりする必要もある。

外部をうまく活用するには、これまでと大きく違うことはないが、一人ではなく、部門全体としてうまく活用しなければならないので、一歩下がって全体像を改めて吟味する。先方にとってどういうメリットがあるのか、先方が何をねらっているのか、どういうスタンスなら乗りやすいのか、そういったことにかなりきめ細かく気を配っていく必要がある。

特にこういった部分は前の上司がうまくアレンジしてくれて、その上で活動していたので従来はうまくいっていた、ということもある。もし前と同じようにやっているのにうまくいかなくなったということがあれば、そういった陰での貢献がいかに重要だったのか考え、それを踏まえてアプローチを考えてみる必要がある。

誰でも通る道

プレーヤーからマネージャーへの転換は誰もが通る道であるが、普段どういうことを意識しているかによって、スムーズにいく人と、大変苦労する人がいる。

スムーズにいく人は、プレーヤー一人ひとりが何をすべきか、できる人はなぜできて、できない人はどこがひっかかってできないのか、部門の全体像がどうあるべきかを、常に考えている。自分が成果を出しつつ、周囲の状況も決して無視したりはしないし、仲間を助けてあげたりもする。周囲からも何かと相談を持ちかけられる。要は人望がある。

苦労する人は、プレーヤー時代に自分の成果達成のことしか考えておらず、周囲の人が何をしているのか、なぜ困っているのかをあまり考えていない。できない人はなぜできないのか、どういうところでひっかかっているかあまり考えたことがないので、いざマネージャーになってもあまりよくわからない。部門が全体としてはどちらの方向に進んでいるのか、それもそれほど関心を持っていなかったので、あまりよく把握できていない。

誰でも通る道ではあるものの、両者の差はあまりにも大きい。会社としてはあるいは彼らの上司の立場からは、手遅れにならないよう、マネージャーへの転換時期の数年前から、どういう気持ちでどう行動する必要があるのか、コーチングをしておく。放置すると本人にとっても、部門にとっても大きな打撃がある。

もちろん、マネージャーにならずプレーヤーとして活躍し続ける人もいるし、そういうキャリアトラックもだんだん整備されてきた。ただ、スキルのあるプレーヤーが一人だけで行動することは会社としては損失であり、多かれ少なかれ、上に立って技を見せていく必要がある。つまり、マネージャー的要素がゼロでもよい、ということはほとんどないので、避けることはあまりできないと考えている。

自分で全部やっていては壁にぶつかる

初めて部下を持つと、慣れずに全部自分でやりがちになる。部下に任せると質が落ちたり、スピードが遅かったりするので見ていられない。質問は山のようにしてくるし、一方、聞くべき重要な点は聞かずに自分勝手にやってしまい、逆に面倒なことが増える。なので、いいとは思わないものの、結局、全部自分でやってしまったりする。

ところが、全部自分でやったら、当然ながらできることには限りがある。一度に多くの顧客に会うことはできないし、新商品を短時間で開発することもできない。事業を急速に立ち上げることはできない。グローバル展開なども到底できない。どういう理由があるにせよ、早めに部下を使いこなす必要がある。

鍵は、どうやって部下に任せつつ、質を維持するか、スピードを落とさないか、途中で必要に応じ、方向修正をどうするのかだ。アウトプットイメージ作成アプローチはまさにこのために開発されたものであるが、どんなタイプの仕事をするにせよ、部下の活用については常に考え続ける必要がある。

具体的には、

・自分で全部やるのではなく、部下を活かす方が確実に仕事が広がることを出発点として理解する
・部下の話を短時間でもいいので集中して聞き、ニーズを把握する
・目標と達成手段を部下に示し、きっちりと理解、納得していただくことに全力を挙げる
・週次で進捗管理をし、進度が遅い部下に対しては、サイクルを上げる
・週次で全体ミーティングをし、意識合わせをする

などが必要である。

初めて部下を持った時はしょうがないが、その後は、急速に成長する必要がある。その間は、新しい役割、行動への挑戦をし続け、無数の微調整と創意工夫をし続けることになる。

部下を馬鹿にしない

初めて部下を持つと、部下のスキルの低さに目が行ってしまい、どうしても馬鹿にしたくなることがある。上司として自信がないと、何の意味もないのに妙に張り合ったり、こちらが優位だと示したいあまりに部下の欠点をあげつらったりする。

もちろん、そういうふうに接していいことは何もない。むしろ部下の気持ちから言うと、「そんなに馬鹿にしたいならすればいい。後で恥をかくのはそっちだぞ」となる。一生懸命やろうという気持ちは当然なくなってしまう。周囲も、そういう狭量な上司を冷ややかな目で見ることになる。

むしろ、気をつけるべきは、初めての上司として仕事をきちんとやれているのかどうかだ。そちらの方がよほど危ない。部下への目標設定のしかた、助言のしかた、成果の出させかた、チームのまとめかた等、粗はいくらでも見つかる。

そもそも、こちらに自信があれば心に余裕があるので、あえて馬鹿にすることもない。馬鹿にするという百害あって一利なしの愚行をすることもない。誰にでも広い心で接することができる。

そのためにどうすべきか。無理をしないで、格好をつけないで、部下の話を全部聞き、助言を求め、それに基づいてしっかりと方針を立てる。一度決めた方針は簡単には変更しないものの、状況が変われば躊躇なく変更する。それだけのことだ。困った時、慣れない時は立場の上下を問わず教えを請う。

いらだちを絶対に見せない、いらだちを持たない

初めて部下を持つと、自分なりに理想的な上司像を短期間に指向しがちになる。当然そんなに簡単に手に入るものではない。理想的な上司像どころか、最初のうちは最悪の上司の行動を取ることも十分ある。こちらは一生懸命やっているつもりで、その一生懸命さが余裕のなさになったり、相手の話を聞かない態度になったり、信念を過剰に押しつけたりしてしまう。

そういう状況なので、問題があるとしたら部下よりも自分であることの方が多い。新米上司である自分の方が色々と問題を起こしやすい。そう考えておいて間違いはない。

そうだとすると、どういうことがあっても、部下へのいらだちを見せないことが重要だと考えている。ほとんどの場合自分に問題があるのに、それに気づかず部下にあたるのは、愚かすぎる。

いらだちがあって、それを見せないのは大変にむずかしい。普通の人にはまず無理だ。なので、本当に必要なことは「いらだちを見せない」ではなく、「いらだちを持たない」ことだ。「いらだちを持たない」とは、「臭いものに蓋をする」ではなく、「臭い物は元から絶つ」ということになる。したがって、どうやったら「いらだちを持たない」ようにするのかが何よりも大切だ。

具体的には、

・自分が上司としては新米であること、部下は部下としてベテランであることを肝に銘じる
・絶対に上から目線で見ない
・最初から部下に一々指図をせず、まずは部下の話を十分によく聞く
・前任者や自分の上司に相談して、リーダーとしてのビジョンとその実現への具体的ステップを描く
・その内容を部下に説明し、意見を求める
・部下の意見を反映し、皆が合意できるビジョンに仕上げる
・部下の業務進捗を定期的に確認し、不足部分を補う
・部下が成功体験を得られるように、プロジェクトの全体をマネージする

という進め方により、平常心で進めるように全力を尽くす。「いらだち」は害にしかならない。

いらだちがあるとしたら、それは自分へのいらだちであり、自分にとっても毒だが、部下に見せるべきものではない。

最後に、チームとしての目標なら高い目標もよいが、上司自身がどう振る舞うか、上司像へのビジョンを部下に宣言するのは、一々言う必要はないと考えている。宣言せずに確実に実行する方がよい。確実に実行すればチームはうまく動くし、上司への信頼は自然に高まる。

部下への関心を持って真剣に接しているかどうか、部下には丸見え

初めて部下を持つと、上司としての威厳を保とうとして、過剰に上司的に振る舞ったり、過剰にへりくだったりして、バランスの悪い人が多い。どちらにしても、部下にはすべてお見通しであり、「ああ、まずい。こいつは小物だ」と思われるのがおちだ。

初めての場合はできることには限りがあるので、かっこをつけず、普通に振る舞っておけばいい。威厳を保とうとすることは、ほとんど無意味であり逆効果だと考えている。本当の威厳は、自信があり、判断が優れていて、自然なリーダーシップがあって初めて備わることなので、即席に強化することはできない。

上司にとっては、「部下への関心を持って真剣に接しているか」が大変に重要だ。部下への関心とは、一緒に仕事をしていく上で、相手を一人の人間として関心を持ち、尊重し、大切にしていくことだ。それがあれば、少しくらいドジを踏んでも、ほとんど問題にはならない。

一方で、「正直言って、上司としてうまく部門を回すことに精一杯で、部下への関心など持っている余裕がない。少しくらい持っていても何もできない」という人もいるかもしれない。この状況は、部下として理解できなくはないので、最初だけはまだ大目に見てくれると思う。

もしその後も「部下に対してあまり関心を持てない」という状況が続くとすると、私は、そういう人はあまり上司という立場に向いていないのではないかと思う。上司は、部下がいて初めて上司だ。車の両輪であり、それがなければ何事も始まらない。そういう状況では部下が気の毒だし、組織のリーダーとしてのミッションも果たせない。

もし、自分が部下への関心をあまり持っていないなら、なぜそうなのか、自分は本当は何をやりたいのか、それを一人でやるべきなのか、人とやれるのか、そもそも上司というような立場にいていいのか、よくよく考えてほしい。

家庭環境に恵まれなかったり、トラウマがあったりして人間不信に陥っておられる上司の方もいらっしゃるだろう。ただ、そうすると、特に意識して部下に接しないと、部下に対しても、会社に対しても不幸な結果になってしまう。
 
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