今回は、新事業を考える際に有効なリーンスタートアップと呼ばれる手法を用いて、ブロックチェーン技術を用いた事業を立ち上げる際のポイントについて述べていきます。
リーンスタートアップとは?
リーンスタートアップとは、製品・サービスの仮説を素早く立て、最も重要な機能のみ簡潔に実装し、実際の顧客・ユーザーで試し、ねらいがはずれたらすぐピボット(=方向転換)をして、成功するまで改善していく製品・サービス開発のアプローチです。10年ほど前から米国を中心に発展してきました。
ごく短期間で製品・サービスのねらいをつけられること、読みがはずれたら何度も急速にピボットするので成功確率が高いこと、費用が非常に安いことなどが特筆すべき点で、シリコンバレーのベンチャーとベンチャーキャピタルの力関係を大きく変えるインパクトをもたらしました。急成長するまでそれほどの資金需要がなく、ベンチャーキャピタル側が日参して投資を受け入れてもらう、という新現象が起きたほどです。
具体的なステップとしては、
- 顧客・ユーザーが泣いて喜ぶほどの「価値仮説」と、1人の顧客・ユーザーが3社・3人呼んでくれる「成長仮説」を立てます(それぞれ1000字程度で)。顧客は製品・サービスの対価を支払ってくれるいわゆるお客様、ユーザーは利用者を指します。
- 仮説を検証するための必要最小限のMVP(Minimum Valuable Product = 実証ミニプロダクト)を最速で構築します。数日から数週間と通常の開発の数十分の一の時間での構築がポイントです。本当に大事な点だけに絞って、見た目を無視して機能を提供できるようにするものです。
- 顧客・ユーザー候補を何社・何名か確保し、MVPを使ってもらって価値仮説、成長仮説が正しかったかどうかを検証します。
- ターゲットKPI(Key Performance Index = 達成目標)を満たさなかったら、すぐ仮説を見直し、MVPを作り変えてピボットします。
- 再び最速で検証します。ターゲットKPIを満たさなかったら4.に戻ります。
というものです。
リーンスタートアップそのものに関しては、「素早い仮説構築・検証・修正による商品開発 実践的リーンスタートアップ」という記事で詳しく述べましたので、ご参照ください。
もともとベンチャーの立ち上げのための工夫として始められましたが、大企業、中堅企業の新事業開発にも非常に効果的です。ブロックチェーンによる新事業に関して、サービスの使用感や事業性などを確認するためにもうってつけだと考えています。
複数の新事業をリーンスタートアップで立ち上げる
リーンスタートアップで進めると、会社としての負担が小さいので、複数のプロジェクトを並行して、しかも素早く進めることができます。上図のように、3つのプロジェクトを進め、それぞれが
- 最初の2ヶ月は、価値仮説・成長仮説構築
- 次の4ヶ月は、MVP開発・試行・ピボット・MVP修正・試行
- 事業化提案を通れば、その後は事業化推進
という進め方ですね。複数を並行して進めるので、新事業案を多く試すことができます。しかも、交互に刺激し合い、ベストプラクティスの共有なども行い切磋琢磨できるので会社としての新事業立ち上げスキルが早く身についていきます。
最初の2ヶ月は、顧客・ユーザーニーズの理解に基づき、価値仮説、成長仮説をそれぞれ1000字程度で作成します。このくらいであれば、パワーポイントで14フォントで書くと、パラグラフ5~7つくらいで、A4の1ページにぎりぎり収まります。1ページにおさめることで複数案を見比べたり、考えをまとめたりすることがやりやすくなります。
その1ページを第三者が読んでも、なるほど、これなら顧客・ユーザーが大いに喜ぶだろう、これなら評判になって広がるだろうと思えるような説得力のある仮説を書くことがポイントです。初めての場合、なかなか書けないので、会社としてはチーム間の連携、協力を促してレベルアップを図ります。
並行して、価値仮説、成長仮説のベースとなる市場規模や事業規模推定、競合優位性の検討などを行います。また、初期仮説としての簡単な事業計画もパワーポイント25ページほどで書いてしまいます。いったん顧客ニーズ、市場規模、製品・サービスの特長、競争優位性、事業規模、推進体制などをざっと書いてしまうと、事業の全体像がずっと見えやすくなるので、後のステップがスムーズに進みます。
フェーズ2の4ヶ月では、価値仮説、成長仮説を検証するためのMVPを素早く開発し、試行・検証して、ピボットを数回繰り返します。この間、プロジェクトチーム間のベストプラクティス共有、失敗事例共有、スキルアップワークショップなどが非常に効果的です。
ブロックチェーンのサービスやプラットフォームは簡単にできるものではないので、MVPとしてはブロックチェーンなしの通常のITシステムで行います。例えば、採用希望企業と就職希望者をつなぐブロックチェーンベースの就職・採用支援サービスの場合、MVP的には通常のウェブサービスでも十分可能です。改ざんに強い点はMVPとしてはあまり確認できませんが、それに関してユーザー体験が特に必要なわけではありませんので、問題ありません。
また、レンタカーと駐車場をブロックチェーンおよびスマートコントラクトでつなぎ、ユーザーがいっさい書類に手を触れることなく車を借りることができるサービスを考えた場合も、MVPをウェブベースで構築し、利便性などのユーザー体験を検証することができます。
ファイル共有で著名な米ドロップボックスの場合、MVPを開発するのが大変過ぎたので、コンセプト動画を作ってそれで代用したほどです。
スマートフォンアプリなど、「ペーパープロトタイピング」ということで、帯状の長い紙にトップ画面を書き、そこでどれを選択したかで紙を動かして次の画面を表示し、操作感を顧客・ユーザーに確認していただく場合もあります。
4ヶ月の最後に、事業化提案をして事業化を進めるのか、中止するかを決めます。もし中止する場合、そのプロジェクトチームのメンバーは出身母体に戻るのではなく、事業化を進めるチームに合流して組織を強化するほうが会社としてのブロックチェーン新事業開発スキルの強化につながります。
価値仮説を構築するむずかしさと注意点
価値仮説を書くのが意外に難しいので、少し補足します。
よくある問題点は、説得力に欠けたり、サービスに具体性がなかったりすることです。A4の紙1ページに書くだけなので簡単そうに思えますが、その製品・サービスに大変に思い入れがあり、普段からいろいろ研究し、考え抜いていないとなかなか書けません。
例に挙げた「採用希望企業と就職希望者をつなぐブロックチェーンベースの就職・採用支援サービス」の場合、採用希望企業にとってどういう価値があるのか、どう使いやすいのか、既存の人材紹介サービスよりどうよいのか、従来型ITサービスにできなかった何ができるのか、就職希望者にとってどういう価値があるのか、仕事がどう探しやすいのか、これまであったどういう不便さが解消されるのか、などを多面的に書いていく必要があります。
常に既存サービス、競合サービスを意識し、顧客・ユーザーが聞いたときに「え?本当に?そんなことができるの?」と思わず声が出るような、ユニークでしかも説得力がある工夫を盛り込みます。
文章力の問題ではなく、普段どこまで深く考えているか、顧客・ユーザーのニーズ、価値感、行動様式などをどこまで深く体系的に理解しているかが問われます。書き慣れる必要はありますが、根本的には、この考えの深さが鍵となります。
5,6回書くと、かなり慣れますし、他の人の書いた価値仮説を見ると粗も見え急激にスキルアップします。プロジェクトチーム間での協力が重要と申し上げたのは、そういう意味でもあります。
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